第1話「愛してる」と自動手記人形
"I Love You" and Auto Memory Dolls
ギルベルト 「どうした?」ヴァイオレット 「少佐の瞳があります」
ヴァイオレット 「少佐の瞳と同じ色です」
ヴァイオレット 「これを見た時の、こういうの…なんと言うのでしょう?」
ヴァイオレット 「ギルベルト少佐、本日入院120日目」
ヴァイオレット 「体力はほぼ回復。動作に多少支障あるも任務の遂行は可能。速やかに職務への復帰を...」
クラウディア <その少女の存在は密かに隠されていた。だがその少女を知る者は彼女を武器だと言った>
クラウディア <命令すれば戦う、人の形を模しているだけの心を持たない…>
クラウディア <ただの道具だと...>
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん!」
クラウディア 「大丈夫?怪我はない?」
ヴァイオレット 「…少佐は?ギルベルト少佐は?」
ヴァイオレット 「どちらにいらっしゃるのですか?ご実家に戻られているのでしょうか?少佐のお怪我の具合は…少佐も重症を負われたはずです」
ヴァイオレット 「生きて…いらっしゃるのですか?少佐は…」
クラウディア <命令すれば戦う、人の形を模しているだけの心を持たない…>
クラウディア <ただの道具だと...>
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん!」
クラウディア 「大丈夫?怪我はない?」
ヴァイオレット 「…少佐は?ギルベルト少佐は?」
クラウディア 「アイツは…来てない」
ヴァイオレット 「どちらにいらっしゃるのですか?ご実家に戻られているのでしょうか?少佐のお怪我の具合は…少佐も重症を負われたはずです」
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん、楽にして」
クラウディア 「安心してよ…ヴァイオレットちゃん。俺はアイツから頼まれてきたんだ」
ヴァイオレット 「では…ご無事なのですね?大戦には勝ったとお医者様から教えて頂きました。少佐は今どんな任務に?いつ合流すれば宜しいでしょうか?」
クラウディア 「いやお辞儀で良いんだけど」
ティファニー 「今だとアンシェネから三日掛かりかしら?」
ティファニー 「ごめんなさい!無理しなくて良いのよ」
ティファニー 「大変!火傷するわ」
ティファニー 「私が若い頃に使ってた物だけど」
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん、ここで幸せに暮らすことがギルベルトの望みなんだ」
クラウディア 「だから…分かったね?」
ヴァイオレット 「少佐は!ギルベルト少佐はどうして私をここに置くのですか?私が腕を失って…武器としての価値が無くなったからですか!?」
ヴァイオレット 「訓練さえすれば…私はまだ戦えます!」
ヴァイオレット 「中佐のことを失念しておりました。申し訳ございません」
クラウディア 「良いんだよ。さ、座るんだ」
クラウディア 「と言うか…俺のこと覚えてくれてたんだね」
ヴァイオレット 「訓練施設の際と決戦前夜の二回、お会いしました」
クラウディア 「うんそうだね」
クラウディア 「なに…してたの?」
クラウディア 「安心してよ…ヴァイオレットちゃん。俺はアイツから頼まれてきたんだ」
ヴァイオレット 「では…ご無事なのですね?大戦には勝ったとお医者様から教えて頂きました。少佐は今どんな任務に?いつ合流すれば宜しいでしょうか?」
クラウディア 「とにかく…着替えて。その間に車を出して貰うから」
「これ、やっと届いた貴女の荷物よ。随分遠くの陸軍基地に間違って運ばれちゃってたみたい」
ヴァイオレット 「ブローチ…エメラルドのブローチが!」
「え?貴女の見つかった現場と駐屯地にあった荷物はこれだけだと…」
ヴァイオレット 「ないなら探しに行かなければ!」
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん!」
ヴァイオレット 「いただいた物なのです…少佐にいただいた物なのです!」
クラウディア 「…分かった。探しておくから、俺が必ず」
ヴァイオレット 「いただいた物なのです…少佐にいただいた物なのです!」
クラウディア 「…分かった。探しておくから、俺が必ず」
ヴァイオレット 「不要です」
クラウディア 「いや!どれか選ばないと世界が終わると仮定して、はい!3!2!」
ヴァイオレット 「では子犬を」
クラウディア 「はい!」
クラウディア 「どうして…子犬を選んだの?」
ヴァイオレット 「以前、少佐の兄上に“お前はギルベルトの犬だな”と言われましたので」
クラウディア 「少し…長い旅になるよ。この辺りの線路が爆撃で壊れて使えないから、ライデンには行った事あったっけ?」
ヴァイオレット 「いえ」
クラウディア 「ギルベルトは戦争が終わった後の君の身の振り方をずっと案じていてね」
クラウディア 「だから自分の親戚筋で一番信頼出来るエヴァーガーデン家に君を預けたいと言っていたんだ」
クラウディア 「連絡を取ったらご夫妻とも喜んで君の身元引受人になることを了承して下さったよ」
クラウディア 「だから自分の親戚筋で一番信頼出来るエヴァーガーデン家に君を預けたいと言っていたんだ」
クラウディア 「連絡を取ったらご夫妻とも喜んで君の身元引受人になることを了承して下さったよ」
ティファニー 「よく来たわね」
クラウディア 「さ、ヴァイオレットちゃん。こちらエヴァーガーデン家の奥方。ご挨拶して」
クラウディア 「いやお辞儀で良いんだけど」
ティファニー 「今だとアンシェネから三日掛かりかしら?」
クラウディア 「ええ、本来なら一日で戻れたんですが…四年も大戦が続きましたからね。復旧にはまだまだ時間が掛かりそうです」
ティファニー 「そっ、ヴァイオレット、貴女も飲んで頂戴」
ティファニー 「ごめんなさい!無理しなくて良いのよ」
ティファニー 「大変!火傷するわ」
ヴァイオレット 「問題ありません。熱さは感じません」
ティファニー 「でも包帯が…早く冷やさないと。オリバー!氷を持ってきて!」
オリバー 「承知しました!」
ヴァイオレット 「アダマン銀で出来た腕です。無骨ですが頑丈です。まだ不慣れですがいずれ支障無くなると思われます」
ティファニー 「私が若い頃に使ってた物だけど」
ティファニー 「あら」
ティファニー 「良いのよそんなに気を使わなくても」
ティファニー 「ホントの親だと思って何でも言って頂戴、ね?」
ヴァイオレット 「私には、元々親はおりませんので代わりも不要です」
ティファニー 「…そう言わないで...ウチには息子が居たんだけど大戦で亡くなってしまって」
ヴァイオレット 「私は亡くなった子供の代わりには成り得ません」クラウディア 「ヴァイオレットちゃん、ここで幸せに暮らすことがギルベルトの望みなんだ」
クラウディア 「だから…分かったね?」
ヴァイオレット 「訓練さえすれば…私はまだ戦えます!」
クラウディア 「あー言い忘れたんだけど、軍は辞めたんだ。俺はもう中佐じゃない」
ヴァイオレット 「ではなんとお呼びすれば」
クラウディア 「社長…かな」
クラウディア 「ここは俺の会社だ」
クラウディア 「古い邸宅を買い取って少し手を入れたんだ。一階は受付窓口になってる」
「お客様、こちらの伝票に配達先と差出人様のご住所をお願い致します」
「配達までには三日少々お時間を頂いております」
クラウディア 「二階は事務所と代筆部門」
ヴァイオレット 「代筆…」
クラウディア 「ああ、依頼者の要望に応じて手紙とかを代わりに書く部門なんだ。まだ字が書けない人も多いからね」
クラウディア 「そっか...」
クラウディア 「戦争が終わったら何か事業を始めようと思っていてね、政府の郵政業務は民間まで手が回ってないから行けるんじゃないかと思ってさ」
クラウディア 「で!命令だ、ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
ベネディクト 「なんだよ社長」
クラウディア 「そこは“なんでしょうか社長?”だろ?」
ベネディクト 「で、なんだよ?」
ベネディクト 「ってーな!なんなんだよ!?」
クラウディア 「任務遂行能力は抜群だ。俺は銀行回ってくるんでお前、いろいろ教えてやってね」
クラウディア 「お前今わざと!」
ベネディクト 「こんなガキが?」
クラウディア 「任務遂行能力は抜群だ。俺は銀行回ってくるんでお前、いろいろ教えてやってね」
ベネディクト 「荷物ここな」
ヴァイオレット 「了解しました」
ベネディクト 「制服、着替えて」
ヴァイオレット 「了解しました」
ベネディクト 「おまっ!ちょ!ちょっと!待て!」
ベネディクト 「あ…デカいな」
ヴァイオレット 「問題ありません」
ベネディクト 「それは外した方が良くないか?」
ヴァイオレット 「いえ、大きく問題はありません」
ベネディクト 「ここに書いてある通り別にそこの棚に入れるんだ。郵便物はどっさりあるけど…焦んなくて良いからな」
ベネディクト 「二階に休憩室もあっから」
ヴァイオレット 「了解しました」
ベネディクト 「じゃあな」
ヴァイオレット 「もうすぐ任務完了です」
ベネディクト 「ずっとやってたのか?休憩も取らずに…」
ヴァイオレット 「配達...」
ベネディクト 「書かれた住所の通りに手紙を届けるんだよ。じゃあ…俺、帰るからまた明日な」
クラウディア 「業績を見てから融資を検討する…ね」
クラウディア 「夜間の配達やってるとこもあるのか…」
クラウディア 「ウチにはまだ無理」
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん!」
ヴァイオレット 「問題ありません」
ベネディクト 「お前なあ…あるんだよ問題が」
クラウディア 「ヴァイオレットちゃん、食べて良いよ」
ヴァイオレット 「食べます」
クラウディア 「食べたら会社まで送って行くよ。屋根裏しか空いてないけど寝泊まり出来る様にしておいたから」
クラウディア 「あ、エヴァーガーデン家は身元引受人にはなってくれるそうだ。君が成人するまで、でも屋敷に置くのは…」
ベネディクト 「問題あったんだなー」
クラウディア 「送るよ」
クラウディア 「君は…ギルベルトから最後にどんな命令を貰った?」
クラウディア 「お前!俺がやんわり言ってんのに!」
ベネディクト 「知らねーよ!」
クラウディア 「送るよ」
クラウディア 「君は…ギルベルトから最後にどんな命令を貰った?」
ヴァイオレット 「逃げて…自由に生きろと...それから…あ...」
クラウディア 「君は…自分がして来た事でどんどん身体に火が付いて、燃え上がっている事をまだ知らない」
ヴァイオレット 「燃えていません」
クラウディア 「燃えてるよ」
ヴァイオレット 「燃えていません、おかしいです」
クラウディア 「いや…燃えてるんだ」
クラウディア 「俺は…そんな君を見ていて放置した」
クラウディア 「いつか…俺の言った事が分かる時が来る。そして初めて…自分がたくさん火傷している事に気付くんだ」
「ドール…さん?」
「えっと、ミス・ヴァイオレット、代筆を頼みたいんだけど…」
<君の事を…>
ヴァイオレット 「どうして分かるのですか?」
クラウディア 「自動手記人形の仕事がしたい?」
ヴァイオレット 「はい。ペンを握るのはまだ困難ですがタイプライターなら操作可能です」
クラウディア 「いや…そうじゃなくて。聞きたいのはどうしてその仕事が…」
ヴァイオレット 「知りたいのです!」
ヴァイオレット 「“愛してる”を…知りたいのです」
ヴァイオレット 「少佐は最後の命令の後に…その言葉を私に仰いました」
ヴァイオレット 「少佐から…その言葉が出たのは初めてでした」
ヴァイオレット 「それはどの様な状態を意味するのか、私には…理解出来ないのです」
クラウディア 「普通は、それが分かるから…自動手記人形になるんだけどね」
クラウディア 「でも…良いよ」
ヴァイオレット 「絶対…絶対少佐を死なせません!」
ギルベルト 「止めろ…」
ギルベルト 「もう止めてくれ!」
ギルベルト 「生きるんだ…」
ギルベルト 「ヴァイオレット、君は…生きて...」
ギルベルト 「自由になりなさい」
ギルベルト 「…心から…愛してる」