第2話 戻って来ない
"Never Coming Back"
『四年前』
ディートフリート 「ああ、悪かった。そんな顔するなよ。今日はお前の昇格祝いに良い物を持って来てやったんだ」
ディートフリート 「いいか?あくまで武器として使え。情けもかけるな」
ディートフリート 「おい、起きろ」
ディートフリート 「北東戦域で拾った」
ディートフリート 「名前は...」
ヴァイオレット 「ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」
ディートフリート 「いいか?あくまで武器として使え。情けもかけるな」
ディートフリート 「おい、起きろ」
ディートフリート 「北東戦域で拾った」
ディートフリート 「名前は...」
ヴァイオレット 「ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」
クラウディア 「今日から自動手記人形の見習いとして働く事になった。仕事の事とか、いろいろ教えてやってくれ」
カトレア 「はーい」
エリカ 「(表情のないその少女は…まるで人形のようだった。この職業の由来となった…機械仕掛けの人形のように)」
カトレア 「ヴァイオレット、貴女、タイプライターは使えるんだっけ?」
ヴァイオレット 「使用したことはありません」
カトレア 「じゃあ、まずはタイプの練習から始めましょうか」
アイリス 「それでドールになるわけ?」
アイリス 「はーい」
カトレア 「えっと…座って」
ヴァイオレット「了解しました」
カトレア 「手袋は取った方が良いわね」
カトレア 「大丈夫?」
ヴァイオレット 「問題ありません」
カトレア 「そう…じゃあまずはやってみましょうか」
カトレア 「こうやって紙をセットして、ノブを回して巻き込むの。FとJにそれぞれ人差し指を置いて打ってみて」
ヴァイオレット 「はい」
カトレア 「そうそう、その調子。あとは文字に対応した指の位置を覚えて」
ベネディクト 「ネリネ、リリアン!一緒に昼飯食おうぜ?焼きそば、お前らの分も買ってあっからよ」
「いらなーい」
ベネディクト 「それとそんな汗臭い格好で窓口に来ないでよね」
ベネディクト 「いやもう…なんだあれ!真面目に汗水垂らして働く男にお疲れ様の一言もない!つか来るなってなんだよ!最近の女の計算高さったらなに?香水くせーし!」
ベネディクト 「あいつらぜってー窓口に来る金持ち引っ掛けるつもりなんだよ」
ローランド 「まあいいじゃないか」
ベネディクト 「もういい!もう働く女はいいわ…」
ベネディクト 「あ!お前ら、焼きそば!」
ベネディクト 「はぁ...」
カトレア 「武器…そうよね、私たち働く女性が社会に出て戦う為のね」
カトレア 「明日は誰かの横で実際のドールの仕事を見て行こっか。私はこれから出張サービスに行ってくるの。要望があれば自宅や仕事先にも出向いて代筆するのよ」
ヴァイオレット 「私も…携帯して宜しいでしょうか?」
カトレア 「明日は誰かの横で実際のドールの仕事を見て行こっか。私はこれから出張サービスに行ってくるの。要望があれば自宅や仕事先にも出向いて代筆するのよ」
ヴァイオレット 「私も…携帯して宜しいでしょうか?」
カトレア 「タイプを?どこへ?」
ヴァイオレット 「自室です。訓練の為と…それから...」
ヴァイオレット 「順調です。問題ありません」
ヴァイオレット 「2クロルずつですと、完済に120年ほど掛かります。旦那様はそれまで生存可能なのでしょうか?」
「ええっ!!」
「なにが…なにがいけなかったの?」
「ええっ!!」
エリカ 「大切なお子様に怪我をさせてしまいました」
「私のしつけが悪かったのかしら…」
エリカ 「私どもの日頃の指導がいた」
「なにが…なにがいけなかったの?」
ヴァイオレット 「業務が滞りますので即座に泣くのを中断して下さい」
エリカ 「すみません…」
「名前なんか聞いてねえ!」
「とにかくこの手紙は気に入らねえ!金は払わねえからな!」
ヴァイオレット 「気に入らないから代金を支払わないは違法行為です。どこがどの様に気に入らないのか…」
「“遅れにつきましては弁解の余地もなく”?これじゃ俺がまるっきり悪いみたいじゃねーか!お前何様だ!」
「名前なんか聞いてねえ!」
「とにかくこの手紙は気に入らねえ!金は払わねえからな!」
ヴァイオレット 「気に入らないから代金を支払わないは違法行為です。どこがどの様に気に入らないのか…」
「どけよ!」
ヴァイオレット 「具体的且つ、適切な指示を速やかにして下さい」
クラウディア 「お客様から何件か…苦情が来てるんだけど」
ヴァイオレット 「問題がありましたか?」
ヴァイオレット 「鋭意訓練中です」
エリカ 「会社と住所、それから業種をタイプして」
エリカ 「ねえ、貴女どうしてこの仕事がしたいの?」
「あら、誰もいないの?」
エリカ 「いらっしゃいませ。代筆をご希望でございますか?」
エリカ 「いらっしゃいませ。代筆をご希望でございますか?」
「他になんの用が?」
エリカ 「失礼致しました」
エリカ 「お客様がお望みならどのような文章も代筆させて頂きます。自動手記人形サービ」
「カトレア・ボードレールってドールは?」
エリカ 「ただいま出張しております」
「あら…彼女なら間違いないって聞いてきたのに...まあいいわ」
「私ね?交際を申し込まれたの。自動車の会社を立ち上げた男性でね。これから“自家用車の時代だから”って」
エリカ 「はあ…」
「でもね、私、そんな簡単な女じゃないし、尻の軽い女に見られたくないわけ」
エリカ 「あの…つまり」
「まあ大した男じゃないし、私には好意なんてないけど、彼がもっと誠意を見せてくれて本当に私を愛してるなら…気品のある、ロマンチックな手紙をお願い。書いといて」
エリカ 「...その...」
「あら貴女が書いてくれるの?」
ヴァイオレット 「了解しました」
「なんなのあの手紙!!!」
カトレア 「お客様…どうぞ落ち着いて下さい。アイリス、お茶をお出しして!」
ヴァイオレット 「ご要望通りに代筆しました」
「あれのどこが!彼、怒って手紙を送り返してきたのよ!読んでみなさいよ!自分が書いた奴!」
ヴァイオレット 「手紙を拝読しましたが、私には現在好意はありません。尚且つ、貴殿の誠意も愛情も不足しています。私は複雑且つ重々しい女でありますので、その点を考慮し贈答品及び資金を調達した上、再度の挑戦を要望します。どこが間違っていたのでしょうか?」
カトレア 「申し訳ありません!ちょっと表現が素直過ぎたと言うか…」
「私…彼とお付き合いしたかったの。でも彼の想いをすぐに受け入れたら…簡単に手に入る女だと思われるじゃない!もっと追い掛けて欲しいのが…女ってもんでしょ!? 私だって…愛してたのよ!」
ヴァイオレット 「依頼者の意図を最大限反映して文章を記しました」
カトレア 「人の弱いところね…相手を試すことで自分の存在を確認するの」
カトレア 「裏腹よね」
カトレア 「…言葉には裏と表があるの。口に出したことが全てじゃないのよ」
カトレア 「人の弱いところね…相手を試すことで自分の存在を確認するの」
カトレア 「裏腹よね」
ヴァイオレット 「少佐…」
ヴァイオレット 「少佐!ギルベルト少佐!」
ベネディクト 「おーい!どうした、一人か?元気ねーなあ ちゃんと飯食ってるか?」
ヴァイオレット 「少佐!ギルベルト少佐!」
ベネディクト 「おーい!どうした、一人か?元気ねーなあ ちゃんと飯食ってるか?」
ヴァイオレット 「栄養の補給はしています」
ベネディクト 「じゃあ…仕事の失敗でもしたか?」
ベネディクト 「あーお前、配達に戻ってこいよ」
ベネディクト 「ドールの仕事にこだわんねーで他の仕事探した方が良いんじゃねーの?」
ベネディクト 「俺も考えよ。ホッジンズの奴、今月給料ねえっつってたし…」
ベネディクト 「ウチの会社ヤバいかもな!」
ヴァイオレット 「私は…自動手記人形に不適格でしょうか?」
エリカ 「…向いてないわ。第一、貴女どうしてこの仕事が良いのよ?」
ヴァイオレット 「“愛してる”を…知りたいのです」
ヴァイオレット 「例え向いていなくても、私はこの仕事を…続けたいのです」
ベネディクト 「俺も考えよ。ホッジンズの奴、今月給料ねえっつってたし…」
ベネディクト 「ウチの会社ヤバいかもな!」
ヴァイオレット 「質問、宜しいでしょうか?」
エリカ 「え?」
ヴァイオレット 「私は…自動手記人形に不適格でしょうか?」
エリカ 「それは…私も」
ヴァイオレット 「貴女のことは聞いていません」
エリカ 「…向いてないわ。第一、貴女どうしてこの仕事が良いのよ?」
ヴァイオレット 「“愛してる”を…知りたいのです」
エリカ 「それだけ?」
ヴァイオレット 「それだけです」
ヴァイオレット 「例え向いていなくても、私はこの仕事を…続けたいのです」
アイリス 「どちらにせよ彼女…ヴァイオレットにドールは無理だと思います」
アイリス 「ウチはまだ出来たばかりの会社ですが、カトレアさんへの依頼は絶えません。でも!ここで評判が落ちたりしたら…せっかく軌道に載って来てるのに、ヴァイオレットには辞めて貰った方が…」
クラウディア 「いや、もう少し…」
エリカ 「あの!」
エリカ 「そのうち、もっといろんな事を知って…手紙も少しずつ書けるようになると思います。お願いします…辞めさせないで下さい」
ヴァイオレット 「裏腹です。私はこの任務に向いていないと言ったのに…裏腹です」
エリカ 「(自動手記人形に向いていないのは…私の方だ。だから彼女を…あんなにムキになって庇ってしまったんだ)」
エリカ 「あの!」
エリカ 「なにも…なにも辞めさせることはないと思います!」
エリカ 「そのうち、もっといろんな事を知って…手紙も少しずつ書けるようになると思います。お願いします…辞めさせないで下さい」
ヴァイオレット 「裏腹です。私はこの任務に向いていないと言ったのに…裏腹です」
エリカ 「(自動手記人形に向いていないのは…私の方だ。だから彼女を…あんなにムキになって庇ってしまったんだ)」
エリカ 「(後の…タイプライターとなったその機械は活版印刷の権威であるオーランド博士が発明したものだった)」
エリカ 「(小説家でありながら盲目となり、執筆出来なくなった妻…モリーの為に制作したものだが、博士はそれを自動手記人形と呼んだ。それが今では代筆業のことを指す呼び名となっている)」
エリカ 「(小説家でありながら盲目となり、執筆出来なくなった妻…モリーの為に制作したものだが、博士はそれを自動手記人形と呼んだ。それが今では代筆業のことを指す呼び名となっている)」
エリカ 「(あの子と出会って実感した。忘れそうになってた自分の夢…埋もれてしまってた自分の気持ち...オーランド夫人が書いた小説が私の心を震わせたように…私もいつか…人の心を動かすような素敵な手紙を書きたい)」
カトレア 「でーきた!どう?」
クラウディア 「うん!よく似合ってるよ。やっぱり俺の見立てに間違いはなかった」
クラウディア 「あぁそれから、最後にこれ…遅くなってごめんね」
クラウディア 「開けてごらん」
ヴァイオレット 「開けます」
ヴァイオレット 「これです…」
ヴァイオレット 「少佐が下さったブローチです!」
カトレア 「でーきた!どう?」
ヴァイオレット 「はい」
クラウディア 「うん!よく似合ってるよ。やっぱり俺の見立てに間違いはなかった」
クラウディア 「あぁそれから、最後にこれ…遅くなってごめんね」
クラウディア 「開けてごらん」
ヴァイオレット 「開けます」
ヴァイオレット 「これです…」
ヴァイオレット 「少佐が下さったブローチです!」
クラウディア 「闇市に流れていたんだ」
クラウディア 「誰かが君の荷物から盗んだんだろうな」
カトレア 「そうだわ!ヴァイオレット、貴女ドールの育成講座に通ってみない?短期の講座もあるし、アイリスも通ってたのよ」
アイリス 「先生すっごく厳しいけどねー」
カトレア 「タメになると思うの」
カトレア 「ねえ、あの子の言う少佐って…誰のこと?」
クラウディア 「あいつはもう…」
クラウディア 「…戻って来ない」
カトレア 「タメになると思うの」
カトレア 「あれを買い戻したから今月のお給料なくなったのね」
クラウディア 「いただきます!!」
カトレア 「ねえ、あの子の言う少佐って…誰のこと?」
クラウディア 「ブーゲンビリア家の一族で…」
カトレア 「あの辺境伯の…」
クラウディア 「いや…良いとこの坊っちゃんのアレには骨のある奴だったよ」
カトレア 「“だった”…?」
クラウディア 「あいつはもう…」
クラウディア 「…戻って来ない」