泉鏡花「勝手に動く異能は嫌い」
中島敦「まーまー夜叉のおかげで命拾いしたこともあるわけだし…(とはいえ夜叉は鏡花ちゃんの両親を殺したんだよな…)」
泉鏡花「夜叉が人間なら第3頚神経叢を切れば一生大人しくなるのに」
中島敦「(鏡花ちゃんの知識…怖い)」
『彼女は元ギルドのルーシー。なぜかこの店で住み込みの給仕を始めた』
ルーシー「復讐よ!あなたへのね。心当たりがないとは言わせなくてよ」
中島敦「でも以前君はモビーディックで僕を助けてくれて…」
泉鏡花「ホットミルク」
泉鏡花「砂糖入り」
ルーシー「私が復讐する理由を思い出さないと本当にくびり殺すわよ」
泉鏡花「大丈夫。何かあれば先に刈り取る」
中島敦「(僕…何か酷いことしたかな?あの時…お互い分かり合えたような気がしたのに…)」
ルーシー「そういえば忘れてたわ。変な人が来て探偵社に依頼ですって」
ルーシー「あなたにじゃないわ。そこのおチビちゃんによ」
泉鏡花「私?」
中島敦「依頼内容は大金の入った鞄を指定企業まで届けること。そして鞄はこのあたりの船に置かれてるらしいんだけど…」
中島敦「どの船だ?書類の不備かな…船の情報だけないんだ」
泉鏡花「手分けして探すしかない」
ルーシー「お困りかしら虎猫ちゃん。じゃじゃーん!」
中島敦「君が書類を抜き取ったのか!?」
ルーシー「当然でしょ。全部渡したら復讐にならないじゃない。何よその顔。まさかあなた私が怒ってる理由がまだわからないの?」
中島敦「い…いや!もちろんわかってるよ!アレでしょ?ほら…あ…前髪が気に入らない…」
ルーシー「バカじゃないの!?あのね!モビーディックからの脱出を手伝った時にあなたは言ったでしょ!」
ルーシー〈いつか私をここから救い出して。待ってるから〉
中島敦〈わかった!〉
ルーシー「なのにあなたは!」
中島敦「ま…待って!あの時君はすぐモビーディックから地上に移されて助けようにも…」
ルーシー「だったら…再会した時一言くらいあってもよくなくて?」
ルーシー「書類が欲しい?なら泳ぎなさい!虎猫」
ルーシー「なのにあなたは!」
中島敦「ま…待って!あの時君はすぐモビーディックから地上に移されて助けようにも…」
ルーシー「だったら…再会した時一言くらいあってもよくなくて?」
ルーシー「書類が欲しい?なら泳ぎなさい!虎猫」
中島敦「ここは…」
中島敦「つまり一度二人を現実に戻して」
中島敦「その後、水分を除いた服と人間だけを再転送するんだ」
中島敦「そうすれば一瞬で乾いた服に戻れる!」
ルーシー「失敗しても知らないわよ」
ルーシー「うわああああああああ!」
泉鏡花「ん?」
村社八千代「まーた徹夜っすか?安吾先輩」
坂口安吾「状況は?」
村社八千代「特務課の資料輸送車を襲撃され報告書が奪われました」
村社八千代「襲撃者は1名。郵便配達人の姿だったとか」
坂口安吾「特務課の武装輸送車を一人で襲撃とは…相当の手練れですね。奪われた報告書は?」
村社八千代「秘密書類番号E7581甲」
坂口安吾「なぜあれを?」
村社八千代「どんな報告書なんすか?」
坂口安吾「彼女の罪を減免する調査記録。異能・夜叉白雪とその夜叉に殺された両親の記録です」
村社八千代「異能はともかくなんでまた両親を?」
坂口安吾「両親は…こちら側でした。親譲りの才能…というわけですよ」
ルーシー「書類にあった船はあれよ」
泉鏡花「信用できない」
ルーシー「あんたの信用なんて欲しくなくてよ」
泉鏡花「なら誰の信用が欲しいの?」
中島敦「鏡花ちゃんは…ご両親が何の仕事をしていたか知ってる?」
泉鏡花「知らない」
『ご両親は恨みを持つ異能力者の襲撃に倒れた。ご両親の存在を表沙汰にできない政府はこれを異能力の暴走として処理した』
中島敦「でも急な襲撃で譲渡が不完全だったために夜叉白雪はその携帯電話からしか操れなくなった」
泉鏡花「殺される何日か前…母様はこの電話を渡して絶対に手放すなって…」
泉鏡花「あの時見た光景…夜叉は二人を殺したわけじゃなかった…」
中島敦「鏡花ちゃん!何か僕に…」
ルーシー「鈍感ね。親の仇だと思ってた異能が親の愛そのものだったのよ。少し一人にしてやりなさいよ」
中島敦「親の愛?でも一体誰が報告書を鞄の中に…」
梶井基次郎「聞きましたよ。特務課の情報を得るのに活動資金の半年分をつぎ込んだとか。豪気なことです」
尾崎紅葉「まぁのう」
尾崎紅葉「あの子の入社祝なら安い買い物じゃ」
中島敦「すいません。乱歩さんの代理で来ました」
谷崎潤一郎「代理?乱歩さんは?」
中島敦「それが…」
江戸川乱歩「この依頼、行っといて」
中島敦「え?でも依頼は乱歩さんに…」
江戸川乱歩「今ちょうど焼き菓子が熱くておいしいから」
谷崎潤一郎「それなら仕方ないね…」
中島敦「ですね…」
谷崎潤一郎「えーと、被害者は40代男性。トラックにはねられて即死。顔が潰れてて現在身元は不明。運転手の証言ではいきなり道に飛び出して来たらしい」
中島敦「推理といえば出かける前に乱歩さんが…」
中島敦「うわああ!」
谷崎潤一郎「敦君!?」
中島敦「なぜ…なぜあなたがここに…なぜです!」
中島敦「院長先生!」
中島敦「信じられません…あの院長先生が死んだなんて…」
谷崎潤一郎「大丈夫?辛かったら休んでも…」
中島敦「辛い?なぜです…最高の気分ですよ!あの院長が死んだ…毎晩うなされる悪夢の原因が消えたんですよ!」
谷崎潤一郎「敦君!?」
中島敦「なぜ…なぜあなたがここに…なぜです!」
中島敦「院長先生!」
谷崎潤一郎「大丈夫?辛かったら休んでも…」
中島敦「辛い?なぜです…最高の気分ですよ!あの院長が死んだ…毎晩うなされる悪夢の原因が消えたんですよ!」
中島敦「あなたが僕を嫌いだから…」
中島敦「(違う!僕が虎になって暴れたからだ)」
谷崎潤一郎「敦君、被害者が手にしていた記事の残りが道の反対側に落ちてたよ」
谷崎潤一郎「院長先生が探してたのは敦君だ。この記事を見てヨコハマに来たんだ。特務課が封殺し損ねたギルド戦のゴシップ記事と写真」
谷崎潤一郎「孤児院の職員から裏も取れたよ。院長先生はこの記事で敦君の活躍を知って多分敦君を激励に」
中島敦「嘘だ!あり得ません!絶対に!あの人がそんな…」
太宰治「親子連れを見るのは辛い?」
中島敦「それでも僕はあの人を許せません。本当に…本当に辛かったんです。今更何をしたって許せるわけがない!」
太宰治「許す必要などないよ。たとえどんな信念があろうと彼が君にしたことは許されざる最悪の蛮行だ」
太宰治「君は確かに地獄にいた。でもその地獄が君を正しく育てたんだ」
太宰治「君は苦痛を知る人間として暴力と悪に抗い弱い立場の人達をたくさん救った」
中島敦「太宰さん…僕の…僕の中から溢れてくるこの気持ちは…この気持ちは…何なんです?」
太宰治「奥底にある他人の気持ちを推し測れる人間なんていやしない。わかった風な気持ちになるだけさ。私に言えるのは一般論だけだ」
太宰治「人は父親が死んだら泣くものだよ」