福地桜痴「ワシだ。軍警に入る覚悟はできたか?貴様の力はウチでしかいかせん」
「整理しているんです」
福沢諭吉「なぜ」
「殺し屋の目的は、おそらくこの重要書類の盗掠、もしくは破壊と私は推測しています」
「それを確認する為、全ての規則性を考慮して並べています。犯人の狙いを看破する為のこの部屋全体が今一個の目録なのです」
福沢諭吉「この部屋の窓から突き落とされたと聞いたが…」
「社長は私を引き抜いて秘書にして下さった恩人です。凶行の真相を暴く事が何よりの贐でしょう」
「ですが幸いな事に殺し屋は既に捕らえられています。社長を殺害後1階の警備員に取り押さえられ隣室に捕縛されています。社長の服の背中から検出された10本の指紋は彼のものと一致したそうです」
福沢諭吉「まだ隣室にいる!?」
「それを確認する為、全ての規則性を考慮して並べています。犯人の狙いを看破する為のこの部屋全体が今一個の目録なのです」
福沢諭吉「この部屋の窓から突き落とされたと聞いたが…」
「社長は私を引き抜いて秘書にして下さった恩人です。凶行の真相を暴く事が何よりの贐でしょう」
「ですが幸いな事に殺し屋は既に捕らえられています。社長を殺害後1階の警備員に取り押さえられ隣室に捕縛されています。社長の服の背中から検出された10本の指紋は彼のものと一致したそうです」
福沢諭吉「まだ隣室にいる!?」
「諦めたらしく大変大人しいですよ」
福沢諭吉「殺し屋の様子を見たいのだが…」
福沢諭吉「(かなりの手練れだな…赤みがかった髪に二丁拳銃…こいつが裏社会で噂の少年暗殺者か…だがこの少年が織田作之助なら、なぜ警備員ごときに取り押さえられる)」
江戸川乱歩「たのもー!」
江戸川乱歩「今日はバカみたいに風が強いね。まぁそれはいいんだけど、この会社の立地どうにかならないかな~?坂道は面倒くさいし道は覚えにくいし」
江戸川乱歩「たのもー!」
江戸川乱歩「今日はバカみたいに風が強いね。まぁそれはいいんだけど、この会社の立地どうにかならないかな~?坂道は面倒くさいし道は覚えにくいし」
「はい!?」
江戸川乱歩「ところでお腹へったんだけど何かない?」
「はい!?」
江戸川乱歩「また子供だと思ってバカにして…じゃあ食べ物はいいから認定証ちょうだい。まさかこの書類と一緒に並べたの?もぉ!秘書さんが責任もって探してよ!僕は別にこの部屋の指紋になんて毛ほども興味ないからさ」
「君は何なのですか!凶事のあとであろうとなかろうとここは社長室!関係者以外立入は禁止です」
江戸川乱歩「ところでお腹へったんだけど何かない?」
「はい!?」
「君は何なのですか!凶事のあとであろうとなかろうとここは社長室!関係者以外立入は禁止です」
江戸川乱歩「僕、関係者だから。今日は面接で来たんだ」
「ダメです!」
江戸川乱歩「いいじゃん別に…どうせ書類なんて無くなってないんだし」
江戸川乱歩「書類は盗まれてないし、そもそも殺し屋は社長さんを殺してないし」
江戸川乱歩「ていうか殺したのは秘書さん、あなただよね?」
江戸川乱歩「書類を並べて誰も部屋に入れない様にしてたのは偽装工作の時間稼ぎでしょう?だって社長さんの服に指紋が付いてるのに部屋のどこにも指紋がなかったら不自然だもの」
江戸川乱歩「どう見ても犯人の秘書さんと、どうみても濡れ衣の殺し屋が揃ってるのに行動を起こさないなんて…」
江戸川乱歩「おじさん、職務怠慢だよ」
江戸川乱歩「ていうか殺したのは秘書さん、あなただよね?」
江戸川乱歩「書類を並べて誰も部屋に入れない様にしてたのは偽装工作の時間稼ぎでしょう?だって社長さんの服に指紋が付いてるのに部屋のどこにも指紋がなかったら不自然だもの」
江戸川乱歩「どう見ても犯人の秘書さんと、どうみても濡れ衣の殺し屋が揃ってるのに行動を起こさないなんて…」
江戸川乱歩「おじさん、職務怠慢だよ」
福沢諭吉「少年、被害者の服の背には殺し屋の指紋が残っていたのだ。つき落とした時の指紋がな」
江戸川乱歩「いくら凄腕の殺し屋でも社長に気づかれずに近づくのは無理だよ。だって机から入口丸見えだもの」
江戸川乱歩「それにもし抵抗する社長を無理矢理って言うんなら、服にはつき落とした指紋じゃなくて投げ落とした指紋がないとおかしいよね?」
福沢諭吉「たまたま窓の前に立って外を眺めていたのかもしれん」
江戸川乱歩「いくら凄腕の殺し屋でも社長に気づかれずに近づくのは無理だよ。だって机から入口丸見えだもの」
江戸川乱歩「それにもし抵抗する社長を無理矢理って言うんなら、服にはつき落とした指紋じゃなくて投げ落とした指紋がないとおかしいよね?」
福沢諭吉「たまたま窓の前に立って外を眺めていたのかもしれん」
江戸川乱歩「こんな風の強い日に?一人で窓開けて?」
福沢諭吉「(確かに…) つまり身内の犯行か」
江戸川乱歩「身内の犯行なのに殺し屋の指紋が出たって事は、それは偽装だよ。指紋の偽装は割と簡単にできるらしいよ。指をパテか何かで型取りすればいい。秘書さん、元警察官か何かでしょう?」
「バカらしい!どうやって殺し屋の指紋が取れるというんだ!福沢さん!いいからこのガキをつまみ出して下さい!」
江戸川乱歩「殺し屋から指紋が取れたのは秘書さんが雇い主だから」
江戸川乱歩「身内の犯行なのに殺し屋の指紋が出たって事は、それは偽装だよ。指紋の偽装は割と簡単にできるらしいよ。指をパテか何かで型取りすればいい。秘書さん、元警察官か何かでしょう?」
「バカらしい!どうやって殺し屋の指紋が取れるというんだ!福沢さん!いいからこのガキをつまみ出して下さい!」
江戸川乱歩「殺し屋から指紋が取れたのは秘書さんが雇い主だから」
「黙れ!」
織田作之助「あんたと戦うつもりはない」
織田作之助「この世界に許しはない」
織田作之助「あるのは報復だけだ」
福沢諭吉「救急車を呼べ!それに市警に連絡を!」
江戸川乱歩「市警だけでいいんじゃない?秘書さん、もう死んじゃってるし」
福沢諭吉「何で餅だけ残す?」
織田作之助「あるのは報復だけだ」
福沢諭吉「救急車を呼べ!それに市警に連絡を!」
江戸川乱歩「市警だけでいいんじゃない?秘書さん、もう死んじゃってるし」
福沢諭吉「何で餅だけ残す?」
江戸川乱歩「だって甘くないんだもの」
福沢諭吉「いつから秘書が犯人だと気づいた?」
江戸川乱歩「最初から。あの人、コート着てたでしょ?書類並べるのにコートはないよね。袖が引っかかるもの。殺し屋の指紋を偽装する道具を隠してたんだよ」
福沢諭吉「なぁ少年」
福沢諭吉「いつから秘書が犯人だと気づいた?」
江戸川乱歩「最初から。あの人、コート着てたでしょ?書類並べるのにコートはないよね。袖が引っかかるもの。殺し屋の指紋を偽装する道具を隠してたんだよ」
福沢諭吉「なぁ少年」
江戸川乱歩「半年前まで寮付きの警察学校にいたんだけど、寮長と言い争いになって過去の女性遍歴を全部暴露したら追い出された」
江戸川乱歩「それからは色んな所を転々としたね。軍の屯所で住み込み働きをした時には、所長の横領を言いふらして追放された」
江戸川乱歩「それからは色んな所を転々としたね。軍の屯所で住み込み働きをした時には、所長の横領を言いふらして追放された」
福沢諭吉「ご両親は」
江戸川乱歩「お陰様で」
福沢諭吉「はい」
江戸川乱歩「用心棒さん助けてください」
江戸川乱歩「仕事もなく泊まる所もなくて死んでしまいます」
福沢諭吉「これから仕事に行く。一緒に来い。確か先方で人員を探していたハズだから仲介しよう。それでいいか?」
江戸川乱歩「ほんと!?」
江川「開演までまだ間があるから現場を確認しておいてちょうだい」
福沢諭吉「脅迫の主の目処はついているのか」
江川「誰ですか?この子は」
江川「おばさん!?💢」
江戸川乱歩「最初から本音を言えばいいのに…どうして大人はいちいち隠すの?」
江戸川乱歩「このおじさんの事もそうだよ。用心棒のおじさんを市警に引き合わせないのは、おじさんに市警を見張らせる為だよね?で、警官にもおじさんを見張らせる。つまりおばさんは誰も信用…」
江戸川乱歩「最初から本音を言えばいいのに…どうして大人はいちいち隠すの?」
江戸川乱歩「このおじさんの事もそうだよ。用心棒のおじさんを市警に引き合わせないのは、おじさんに市警を見張らせる為だよね?で、警官にもおじさんを見張らせる。つまりおばさんは誰も信用…」
福沢諭吉「そこまでだ。あなたの内心がどうであろうと俺は気にしない。事件を防ぐため最善を尽くすだけだ。関係者に話を聞きたいが構わないか?」
村上時雄「本番直前に一体何ですか」
村上時雄「何です、そのガキは」
江戸川乱歩「あんなつまんない台本、最初のページで面倒になっちゃったよ」
福沢諭吉「おい」
村上時雄「そうか…お前がつまらねぇと思うならそうなんだろ」
村上時雄「判断するのは見た奴だからな」
「村上には会ったの?この芝居は彼の独演会みたいなもんよ。脚本の倉橋さんと二人でずいぶん打ち合わせをしてたわ」
「誰も本当に殺しが起きるなんて思っちゃいませんよ。でも狙われるならやっぱり村上君だろうな~女性の追っかけも多いし」
「ふ~ん~それはあれね~」
村上時雄「そうか…お前がつまらねぇと思うならそうなんだろ」
村上時雄「判断するのは見た奴だからな」
「村上には会ったの?この芝居は彼の独演会みたいなもんよ。脚本の倉橋さんと二人でずいぶん打ち合わせをしてたわ」
「誰も本当に殺しが起きるなんて思っちゃいませんよ。でも狙われるならやっぱり村上君だろうな~女性の追っかけも多いし」
「ふ~ん~それはあれね~」
福沢諭吉「あれ?」
江戸川乱歩「はぁ~」
福沢諭吉「殺人は起こさせん。この脅迫が本物だとは市警も劇場も考えてはいない」
江戸川乱歩「脅迫じゃないよ。これは脅迫じゃなくて予告。そもそも脅迫っていうのは二者択一なんだよ。“あれこれやめろ。でないとあれこれするぞ”っていうのが脅迫。でも今回は“役者を殺すぞ”っていう予告だけ」
江戸川乱歩「だから脅迫じゃなくてむしろ宣言だね。最初から犯人は劇場に何も求めてない」
福沢諭吉「その事にいつ気づいた?」
江戸川乱歩「まさかおじさんが犯人の予告を脅迫と勘違いしていると思わなかったから」
福沢諭吉「お前はもしかしたら自分が気づいている事を当然の様に他者も気づいていると…そう思っているのか?」
江戸川乱歩〈書類は盗まれてないし、そもそも殺し屋は社長さんを殺してないし〉
江戸川乱歩〈用心棒のおじさんを市警に引き合わせないのは、おじさんに市警を見張らせる為だよね?〉
江戸川乱歩〈書類は盗まれてないし、そもそも殺し屋は社長さんを殺してないし〉
江戸川乱歩〈用心棒のおじさんを市警に引き合わせないのは、おじさんに市警を見張らせる為だよね?〉
江戸川乱歩「ん?」
福沢諭吉「今夜泊まる所がないと言ったな?」
江戸川乱歩「ないよ」
福沢諭吉「ならばとりあえず俺の家に泊めてやる。だから何でもいい。俺について気づいた事を言ってみろ」
江戸川乱歩「大人って本当に交換条件が好きなんだね」
江戸川乱歩「会ったばかりだから大した事はわからないけど…歳は30代前半、職業は要人警護、武術の達人、独り身、同僚もいない、右利き…お店で右側が壁席を選んだから剣術もやってたはず」
江戸川乱歩「会ったばかりだから大した事はわからないけど…歳は30代前半、職業は要人警護、武術の達人、独り身、同僚もいない、右利き…お店で右側が壁席を選んだから剣術もやってたはず」
江戸川乱歩「でも今その刀を仕事に使わないのは前の仕事を恥じているからかなぁ」
「!!」
江戸川乱歩「剣術を使って恥じる仕事って何だろう…そういえば何年か前に話題になってたよね…終戦協定のごたごたで好戦派の官僚や海外軍閥の長が次々と死体で見つかった事件」
江戸川乱歩「おじさんさっき売店の新聞の見出し見てちょっと顔しかめてたよね?」
江戸川乱歩「…え…あ…うん…大丈夫…」
福沢諭吉「(やはりこいつの力は本物だ)」
福沢諭吉「少年、この仕事を手伝え。うくまやり切れたら次の仕事先も紹介してやる。どうだ?」
江戸川乱歩「わかった…手伝うよ」
福沢諭吉「(俺は何をしている…もう何者とも組まないと決めたハズなのに…)」
福沢諭吉「行くぞ!」
福沢諭吉「(やはりこいつの力は本物だ)」
福沢諭吉「少年、この仕事を手伝え。うくまやり切れたら次の仕事先も紹介してやる。どうだ?」
江戸川乱歩「わかった…手伝うよ」
福沢諭吉「(俺は何をしている…もう何者とも組まないと決めたハズなのに…)」
福沢諭吉「行くぞ!」