「いつもその本を読んでるな坊主。そんなに面白いか」
「面白い。もう何度も読んでる」
「その本、下巻はどうした?」
「下巻は持ってない。いくら探してもなかった」
「自分が書く?」
「それが唯一、その小説を完璧なままにしておく方法だ」
「小説を書く事は人間を書く事だ。どう生きてどう死ぬべきかという事をな。わしの見た所お前にはその資格がある」
「あなたは一体誰なんです?」
「わしか?わしの名は…」
織田作「お前に言われた場所で安吾に会った」
織田作「奴らとミミックは別組織なのか?」
太宰治「別だよ。ただ黒の特殊部隊の方は当面無視していい。やはり危険なのはミミックだ」
太宰治「話が逸れたね。今朝、五大幹部会が招集され、ポートマフィアの全戦力をもってミミックを迎撃する事が決定された」
太宰治「ついさっき芥川君を含む私の部下が奇襲を受け、今も美術館で抗争を…」
太宰治「織田作?まさか行くのかい?」
織田作「全戦力をもって迎撃するんだろ?」
太宰治「じゃあ何て?」
太宰治「借りなんて忘れてしまえばいい。相手だって何を貸したかなんて覚えちゃいないさ」
芥川龍之介「銃など愚者の戎具」
芥川龍之介「何者だ」
芥川龍之介「バカな!これは異能力か!?貴様!やつがれの動きが読めるとでも言うのか!?」
芥川龍之介「殺せ!敗残兵は去るのみ…貴様の求める敵になってやれず…すまなかった」
織田作「足を撃たれたのか」
芥川龍之介「おい!貴様何をする!降ろせ!降ろせ!」
織田作「俺は織田作之助!太宰に話を聞いて助けに来た!」
芥川龍之介「貴様の名は太宰さんから聞いている…一介の下級構成員だ…そしてあの人の友人だと聞いた…まことか?」
織田作「何の話だ?」
ジイド「どうした?俺はまだ銃を撃ってすらいないぞ」
織田作「何をした!」
ジイド「俺には今、貴君が右に避ける未来が見えた。それに合わせて狙いを修正した。だが貴君はその未来を見て方向を修正した。それも俺には見えた」
ジイド「俺には今、貴君が右に避ける未来が見えた。それに合わせて狙いを修正した。だが貴君はその未来を見て方向を修正した。それも俺には見えた」
ジイド「何?貴君はマフィアではないのか?」
織田作「マフィアも色々だ」
ジイド「銃は人を殺す道具だ。そしてここは戦場だ!」
ジイド「あくまで本気で戦うつもりはないと」
織田作「俺には殺しをしない理由がある」
ジイド「なぜだ!俺と部下達は死に値する場所を求め世界をさ迷った。貴君が唯一の望みなのだ。戦ってくれ!」
織田作「俺がお前の願いを聞けないのは夢があるからだ」
織田作「いつかポートマフィアを辞めて何でもできる身になった時…海の見える部屋で…机に座って…」
〈ならばお前が書け。それが唯一、その小説を完璧なままにしておく方法だ〉
ジイド「それがお前の答えか…」
織田作「やめろ!」
ジイド「防弾ベストか…生きているが故の痛みだな…とうの昔に失ったものだ」
ジイド「我らはもう死んでいる。魂のない肉体を奴隷が操っているに過ぎない」
織田作「お前は死んでいない!過去に何があったか知らないが…自分の死に方をゆっくり考える事はできる」
ジイド「我らはもう死んでいる。魂のない肉体を奴隷が操っているに過ぎない」
織田作「お前は死んでいない!過去に何があったか知らないが…自分の死に方をゆっくり考える事はできる」
太宰治「夜はいい。マフィアの時間だ」
織田作「これからどうする?」
太宰治「そうかい?死に方に工夫を凝らしたいなんて私にはない発想だよ」
織田作「この抗争はいつまで続く?」
太宰治「私も同意見だね」
織田作「安吾を探す方法はないものかなぁ」
織田作「あるのか?」
太宰治「正確に言えば、探し出す必要すらない」
織田作「ここか…」
坂口安吾「お先にやってますよ」
織田作「連絡くらいくれてもよかったんじゃないか?」
坂口安吾「尾行をまくのに苦労しましてね。でも今日は大丈夫です。ゆっくり飲める。それで、どうしてここがわかったんです?」
太宰治「潜入捜査官にしては随分センチメンタルじゃないか…君はポートマフィアに入る前から別の顔があった。それは国の秘密機関、内務省異能特務課のエージェントとしての顔だ」
太宰治「任務はポートマフィアの動向の監視。国内の異能力者を統括する秘密組織といえど、ポートマフィアと全面戦争となればただではすまない」
太宰治「そもそも特務課の任務は異能力者の管理だ。殲滅じゃない。だからポートマフィア内にエージェントを潜入させ動向を監視させていた」
坂口安吾「ジイドと織田作さんが会敵したという情報が入りました。ジイドの異能力は見ましたか?」
織田作「見た」
坂口安吾「ジイドは神出鬼没で居場所を悟らせません。上はこの件を完全にポートマフィアに投げる腹積もりです」
織田作「異能力の特異点?」
坂口安吾「複数の異能力が干渉し合うと、ごく稀に全く予想もしなかった方向に異能力が暴走するという現象が政府機関によって確認されています」
坂口安吾「今の話、本当はしてはいけない事になっています。僕がこうして会っている事も上層部に知られたら大問題になります。当面は姿を隠さなくては…」
太宰治「おやおや、まるで自分が生きてここから出られるみたいな口ぶりだね」
坂口安吾「今の話、本当はしてはいけない事になっています。僕がこうして会っている事も上層部に知られたら大問題になります。当面は姿を隠さなくては…」
太宰治「おやおや、まるで自分が生きてここから出られるみたいな口ぶりだね」
織田作「ここを戦場にする気か」
坂口安吾「僕のせいですね…僕が間違っていた…この場所だけは皆さんと立場を超えて会える気が…勝手にしていました…」
太宰治「安吾…私の気が変わらないうちに消えるんだ」
太宰治「別に悲しんでいるんじゃない。最初からわかっていた事だ。安吾が特務課であろうとなかろうと、失いたくない物は必ず失われる」
太宰治「安吾…私の気が変わらないうちに消えるんだ」
太宰治「別に悲しんでいるんじゃない。最初からわかっていた事だ。安吾が特務課であろうとなかろうと、失いたくない物は必ず失われる」
太宰治「求める価値のあるものはみな、手に入れた瞬間に失う事が約束されている。苦い生を引き延ばしてまで追い求めるものなんて…何もない」
坂口安吾「太宰君…織田作さん…いつか時代が変わって特務課もポートマフィアもない…我々がもっと自由な立場になったら…また…」
織田作「言うな安吾…それ以上言うな…」
織田作「おやじさん!」
織田作「(喉が痛かった…呼吸ができなかった…誰かの叫び声が聞こえた…あまりに激しく喉が痛むので気付いた…叫んでいたのは…俺だった…)」
「ならばお前が書け。それが唯一、その小説を完璧なままにしておく方法だ」
織田作「もう書けない…俺はもう…小説を書く事はできない…」
織田作「(喉が痛かった…呼吸ができなかった…誰かの叫び声が聞こえた…あまりに激しく喉が痛むので気付いた…叫んでいたのは…俺だった…)」
「ならばお前が書け。それが唯一、その小説を完璧なままにしておく方法だ」
織田作「もう書けない…俺はもう…小説を書く事はできない…」