春野綺羅子「はい、ただいま」
中島敦「ビー玉?」
春野綺羅子「これでよろしいですか乱歩さん」
江戸川乱歩「うーん、いいよねぇビー玉」
中島敦「あの…乱歩さんは手伝わないんですか?」
江戸川乱歩「国木田君~僕そろそろ名探偵の仕事に行かないと」
国木田独歩「殺人事件の応援ですね?」
江戸川乱歩「まったく、この街の警察は僕なしじゃ犯人一人捕らえられないんだからな~でもまあ僕の超推理はこの探偵社、いやこの国でも最高の異能力だ。皆が頼っちゃうのも仕方ないよね」
国木田独歩「頼りにしてます乱歩さん」
江戸川乱歩「わかってればよろしい。そう!君らは探偵社を名乗っておいて、その実、猿程の推理力もありゃしない」
春野綺羅子「すごいですよね超推理。使うと事件の真相が瞬時にわかっちゃう能力なんて」
国木田独歩「探偵社…いや全能力者の理想です」
江戸川乱歩「当然だね」
国木田独歩「小僧、ここの片付けはいいから乱歩さんにお供しろ。現場は列車ですぐだ」
中島敦「ぼ…僕が探偵助手ですか!?そんな責任重大な…」
江戸川乱歩「まさか~二流探偵じゃあるまいし助手なんていらないよ」
中島敦「じゃ僕は何を?」
江戸川乱歩「ほら僕、列車の乗り方わかんないから」
中島敦「(正直驚いた。切符の買い方、改札の通り方、ホームの場所)」
中島敦「(本当に何もわかんないとは…異能力を使わないと、この人何にもできないんだな)」
箕浦「遅いぞ探偵社」
江戸川乱歩「あれ?君誰?」
箕浦「俺は箕浦。安井の後任だ。本件はウチの課が仕切る事になった。よって探偵社は不要だ。今日は探偵になど頼らない。殺されたのは俺の部下だからな」
江戸川乱歩「ご婦人か…」
杉本「今朝、川を流されている所を発見されました」
箕浦「胸部を銃で三発。殺害現場も時刻も不明。弾丸すら発見できない」
江戸川乱歩「犯人の目星は?」
箕浦「わからん」
江戸川乱歩「それってさ、何もわかってないって言わない?」
箕浦「だからこそ、素人上がりの探偵などに任せられん」
「おい!網に何かかかったぞ!」
「人だ!人がかかってるぞ!」
中島敦「まさか第二の被害者!?」
太宰治「やぁ敦君!これは奇遇だね」
中島敦「ま…また入水自殺ですか?」
太宰治「いや一人で自殺なんてもう古いよ敦君」
太宰治「私は確信した。やはり死ぬなら美人との心中に限る!ああ~心中!この甘美な響き!」
太宰治「というわけで一緒に心中してくれる美女をただいま募集中~」
中島敦「え…じゃ今日のこれは?」
太宰治「フン…これは単に川を流れてただけ」
中島敦「なるほど…」
太宰治「ところで敦君、こんな所で何してるの?」
中島敦「仕事ですけど…」
太宰治「仕事?何の?」
太宰治「ななななんて事だ…かくの如き華麗なるご婦人が若き命を散らすとは…」
太宰治「悲嘆で胸が破れそうだよ~どうせなら私と心中してくれれば良かったのに~」
太宰治「しかし安心したまえご麗人!稀代の名探偵が必ずや君の無念を晴らすだろ~ね?乱歩さん」
江戸川乱歩「ところが僕は未だに依頼を受けてはいないのだ」
太宰治「どういう事です?」
江戸川乱歩「この人に聞いて」
箕浦「探偵などに用はない。実際、俺の部下は全員私立探偵などより余程優秀だ」
江戸川乱歩「おお君!名前は?」
杉本「自分は杉本巡査であります。殺されたこの山際女史の後輩であります」
江戸川乱歩「よし杉本君!今から60秒でこの事件を解決しなさい」
杉本「えええーー!?」
江戸川乱歩「僕なら一分以内に解決できる。僕より優秀だと豪語するならできるよね?それでは杉本君、いってみよ!」
杉本「えええーー!?」
杉本「そうだ!最近山際先輩は政治家の汚職疑惑とポートマフィアの活動を追ってました。確か…マフィアの報復の手口に似た殺し方があったハズです。もしかすると先輩は捜査したマフィアに殺され…」
太宰治「違うよ。ポートマフィアの報復の手口は身分証と同じで細部まで厳密に決められている」
太宰治「まず裏切り者に敷石を噛ませ、後頭部を蹴り顎を破壊、激痛に悶える犠牲者をひっくり返し、胸に三発」
太宰治「この手口はマフィアに似ているが、マフィアじゃない。つまり…」
箕浦「犯人の偽装工作?」
杉本「偽装の為だけに遺骸に2発も撃つなんて…酷い」
江戸川乱歩「プウーー!ハイ時間切れ」
箕浦「いい加減にしろ!さっきから聞いていれば、やれ推理だのやれ名探偵だの、通俗創作の読み過ぎだ。事件の解明は即ち地道な調査、聞き込み、現場検証だろ」
江戸川乱歩「はあ?まだわかってないの?名探偵は調査なんてしないの。僕の能力超推理は、一目見れば犯人が誰で、いつどうやって殺したか瞬時にわかるんだよ~」
江戸川乱歩「僕は異能力者だからね」
箕浦「そんな便利な異能力があるなら、俺達刑事はいらねぇじゃねぇか」
江戸川乱歩「まさにその通り!ようやく理解が追いついたじゃないか」
箕浦「貴様ァ!」
太宰治「まーまー刑事さん、乱歩さんは終始こんな感じですから」
江戸川乱歩「何しろ僕の座右の銘は“僕が良ければすべてよし!”だからな!」
中島敦「(座右の銘を聞いてこんなに納得したのは始めてた)」
太宰治「やれやれ」
箕浦「そこまで言うなら見せてもらおうか。その能力を」
江戸川乱歩「おや~?それは依頼かな~?最初から素直に頼めばいいのに」
箕浦「フン!何の手がかりもないこの難事件を相手に大した自信じゃないか。60秒計ってやろうか?」
江戸川乱歩「そんなにいらない」
太宰治「よく見ていたまえ敦君。これが探偵社を支える能力だ。あの眼鏡をかけると乱歩さんは、超推理のスイッチが入る」
中島敦「(事件の真相がわかる能力…本当にそんな力が存在するのか!?)」
江戸川乱歩「なるほど」
江戸川乱歩「犯人は…君だ」
江戸川乱歩「杉本巡査」
箕浦「バカ言え!大体こんな近くに都合良く犯人がいるなど…」
江戸川乱歩「犯人だからこそ捜査現場に居たがる。それに言わなかったっけ?どこに証拠があるかもわかるって。拳銃貸して」
杉本「バカ言わないでください!一般人に官給の拳銃を渡したら減俸じゃ済みませんよ!」
江戸川乱歩「その銃を調べて何も出て来なければ確かに僕は口先だけのアホって事になる」
箕浦「杉本!見せてやれ!ここまで吠えたんだ!納得すれば大人しく帰るだろう」
箕浦「どうした杉本」
江戸川乱歩「いくらこの町でも、素人が銃弾を補充するのは容易じゃない。官給品の銃ならなおさらだ」
江戸川乱歩「彼は懸命に考えている最中だよ。使ってしまった三発分の銃弾についてどう言い訳するかをね」
箕浦「お前が犯人のハズない!早く銃を見せろ!」
箕浦「続きは職場で聞こう。お前にとっては最後の職場になるかもしれんが」
杉本「撃つつもりはなかったんです」
杉本「彼女はある政治家の汚職事件を追っていました」
杉本「そこで予想外にも、大物議員の犯罪を示す証拠を入手したんです」
杉本「しかし議員も老獪で、警察内のスパイを使ってその証拠を消そうとしました」
江戸川乱歩「そのスパイが君という訳だね?」
杉本「昔から警察官に憧れていました。試験に3度落ちて…落ち込んでいる時に男に声を掛けられたんです」
杉本「そして議員の力で警察官になった僕は、見返りに指示に従っていました」
箕浦「それでお前は議員の犬として山際を殺したのか!?」
杉本「違います!自分は彼女に警告を…このままでは消されるから…証拠を手放せと…しかし彼女は…」
杉本〈証拠品を渡して下さい〉
山際〈銃を下ろしなさい杉本君。あなたに私は撃てない〉
杉本〈その通りだ…〉
杉本〈だから脅し方を変える!〉
江戸川乱歩「君はその通りに彼女の胸にもう二発撃ち、マフィアの仕業に偽装」
江戸川乱歩「発見を遅らせる為、川に遺体を流した」
箕浦「山際が入手した証拠品はどこだ?その議員は山際の仇だ。言え杉本!」
江戸川乱歩「ねぇ杉本君、彼女の最後の言葉、当ててみようか?」
江戸川乱歩「ごめんなさい…だね?」
山際〈ごめん…なさい…〉
杉本「本当に…全てお見通しなんですね…証拠品は僕の机の引き出しにあります…」
箕浦「世話んなったな。それに実力を疑って悪かった。難事件に当たったらまた頼む」
江戸川乱歩「僕の力が必要になったら、いつでもご用命を。次からは割引価格で良いよ」
箕浦「そいつは助かる」
中島敦「すごかったですね乱歩さん!まさか全部当てちゃうなんて…異能力超推理、本当にすごいです!」
太宰治「私も半分くらいわかったかな~」
中島敦「何がです?」
太宰治「だからさっきの事件だよ。乱歩さんがどうやって推理したか」
中島敦「だってそれは異能力によって瞬時にわかるって…」
太宰治「君はまだ知らなかったか…実はね、乱歩さんは異能力者じゃないのだよ」
中島敦「はい!?」
太宰治「乱歩さんは異能力者揃いの探偵社では珍しい何の異能力も所持しない一般人なんだ。本人は異能力を使ってるつもりみたいだけどね」
太宰治「それにああ見えて乱歩さんは26歳だよ。探偵社の皆が乱歩さんを敬うのは、超推理が異能力じゃないと知っているからさ」
太宰治「私も話しには聞いていたけど、今日はっきりと思い知らされた」
太宰治「実は私ね、乱歩さんが超推理をしている間」
太宰治「後ろでこっそりと乱歩さんの髪の毛を摘まんでいたのだよ」
太宰治「知っての通り私は触れた相手の異能力発動を阻害する反異能力者だ。私が体の一部に触れている限り、いかなる超人異能力者と言えども力を振るう事はできない」
太宰治「つまり乱歩さんの超推理は異能力じゃない」
中島敦「じゃどうやって…」
太宰治「だからあれは純粋に推理だ」
中島敦「そんな…だってあんな短い時間で犯人を当てたんですよ?」
太宰治「それなら私にもわかったよ。杉本巡査、言ってたよね?」
杉本〈偽装の為だけに遺骸に二発も撃つなんて…〉
太宰治「でも三発撃たれてる死体を見たら誰だって三発同時に撃たれたって思うよ」
太宰治「つまり彼は一発目で被害者が死んだ事を知っていたのだよ。解剖がまだなのにそれを知っているってのは?」
中島敦「犯人だけ…でも犯行時間も当てましたよね?昨日の早朝だって」
太宰治「それはね…」
太宰治「遺体の損壊は少なかったから、川を流れたのは長くて一日。昨日は火曜、平日だ。なのに遺体は化粧もしていなかった。激務で残業の多い刑事さんが平日に化粧なしとくれば死んだのは早朝」
中島敦「そうか…他の犯行現場とか、銃で脅したとかはどうやって!?」
太宰治「そこまではお手上げだよ。乱歩さんの目は、私なんかよりずっと多くの手がかりをとらえているだろうし」
中島敦「そうですよね…彼女の最後の言葉まで当てちゃうくらいだから…」
太宰治「あれはね、彼女に交際相手はいないって話だったよね。でも彼女の時計は海外のブランドものだった。独り身の女性が自分用に買う品じゃない」
太宰治「それと杉本巡査の腕時計も同じモデルの紳士用だった」
中島敦「じゃあの二人は…」
太宰治「早朝の呼び出しに化粧もせずに駆けつける…そして同じモデルの腕時計」
太宰治「二人は恋人同士だったのだよ」
太宰治「だから彼は、彼女の顔を蹴って砕く事ができなかったんだ。そうしないとマフィアの仕業に見せかけられないとわかっていても…」
江戸川乱歩「ほら!案内係!僕一人じゃ探偵社に帰れないでしょうが!」
中島敦「なんとなくわかりました。探偵社の皆が乱歩さんを信頼してる理由が」