沖田総司「心配はいりませんよ。僕はこれでも新選組一番隊組長ですよ」
緋村剣心「いたたた…」
神谷薫「あっけない…これがあの人斬り抜刀斎?」
緋村剣心「流浪人。拙者は流浪人。あてのない旅の剣客でござるよ。この街に着いたばかりで辻斬りと言われても何の事やら…」
神谷薫「じゃ腰のそれは?剣客だからって帯刀は許されないわよ」
神谷薫「何これ…逆刃刀?」
緋村剣心「この刀で人を斬れるでござるか?」
神谷薫「できないわね。第一この逆刃、刃こぼれところか血の匂いも脂の曇りもない。新品同様だわ」
神谷薫「でも何でこんな使えない刀を…」
神谷薫「警察?」
神谷薫「今度こそ!」
「つ…強すぎる!この強さはまさに話に聞くあの抜刀斎!」
神谷薫「そこまでよ!抜刀斎!」
神谷薫「でも何でこんな使えない刀を…」
神谷薫「警察?」
神谷薫「今度こそ!」
「つ…強すぎる!この強さはまさに話に聞くあの抜刀斎!」
神谷薫「そこまでよ!抜刀斎!」
緋村剣心「手負いでの深追いは命取りでござるよ。相手は流儀を名乗っておるのだから、あせらずとも」
神谷薫「神谷活心流はウチの流儀よ!奴はウチの名を騙って辻斬りをしてるのよ!」
緋村剣心「警察に詮議される前にここは失せるでござるよ」
緋村剣心「神谷活心流…」
神谷薫「神谷活心流はウチの流儀よ!奴はウチの名を騙って辻斬りをしてるのよ!」
緋村剣心「警察に詮議される前にここは失せるでござるよ」
緋村剣心「門下生…おろ?」
神谷薫「そもそも小さな流儀なんだけどね…それでも門下十人余り、力を合わせて頑張っていたのよ」
神谷薫「けれど二か月前、突如奴の辻斬りが始まって今ではこの通り…抜刀斎の名を恐れて門下生は去ってしまい、町の人達も道場に近づこうとすらしない」
神谷薫「人斬り抜刀斎は明治になった今でも人々に畏怖されているのよ。どうして神谷活心流を騙るのか…」
神谷薫「本当に抜刀斎かどうか皆目わからないけど…一刻も早く奴の凶行を終わらせないと…」
神谷薫「そもそも小さな流儀なんだけどね…それでも門下十人余り、力を合わせて頑張っていたのよ」
神谷薫「けれど二か月前、突如奴の辻斬りが始まって今ではこの通り…抜刀斎の名を恐れて門下生は去ってしまい、町の人達も道場に近づこうとすらしない」
神谷薫「人斬り抜刀斎は明治になった今でも人々に畏怖されているのよ。どうして神谷活心流を騙るのか…」
神谷薫「本当に抜刀斎かどうか皆目わからないけど…一刻も早く奴の凶行を終わらせないと…」
神谷薫「神谷活心流は…幕末の動乱を生きて来た私の父が明治になって開いた流儀」
神谷薫「父は殺人剣をよしとせず“人を活かす剣”を志にこの十年一途に頑張ってきたわ」
神谷薫「でもそんな父も警視庁抜刀隊の一員として半年前の西南戦争にかりだされ、自分の志と大きくかけ離れた所でこの世を去ってしまった」
神谷薫「父の遺した流儀が活人剣を理想とする神谷活心流が殺人剣に汚されて、たかが流浪人風情にこの悔しさはわからないわよ!」
緋村剣心「…だがどの道その腕じゃ夜廻りは無理でござるな。今は大事をとるに越したことはない」
「こら!暴れるな!」
「神妙にせい!」
緋村剣心「いや別に…それより辻斬りの件、その後どうでござる?」
神谷薫「ええ…一応犯人らしき人物は浮かんできたわ。隣町にも剣術道場があるんだけど」
神谷薫「正しくは元道場で今や博徒や破落戸の溜まり場になっているの」
神谷薫「そこを二か月程前、士族崩れの剣客が牛耳ったらしいのよ。しかもその男、身の丈が六尺五寸もある大男だとか」
神谷薫「辻斬りが始まったのも二か月程前からだし、奴も六尺五寸程の剣達者。そんな大男ザラにはいないわよ」
喜兵衛「薫さん、夕飯の支度がありますので私はこれで」
神谷薫「ええ…一応犯人らしき人物は浮かんできたわ。隣町にも剣術道場があるんだけど」
神谷薫「正しくは元道場で今や博徒や破落戸の溜まり場になっているの」
神谷薫「そこを二か月程前、士族崩れの剣客が牛耳ったらしいのよ。しかもその男、身の丈が六尺五寸もある大男だとか」
神谷薫「辻斬りが始まったのも二か月程前からだし、奴も六尺五寸程の剣達者。そんな大男ザラにはいないわよ」
喜兵衛「薫さん、夕飯の支度がありますので私はこれで」
神谷薫「うん、お願いね」
神谷薫「喜兵衛?まあ住み込みの奉公人ってトコかな」
神谷薫「父が亡くなってすぐだったかしら…道場の前で行き倒れてるのを介抱したのが縁でね、私を心配してくれて道場を売って静かに暮らそうって言ってくれるんだけど」
緋村剣心「素性は?」
神谷薫「父が亡くなってすぐだったかしら…道場の前で行き倒れてるのを介抱したのが縁でね、私を心配してくれて道場を売って静かに暮らそうって言ってくれるんだけど」
緋村剣心「素性は?」
神谷薫「聞いてないから知らない」
緋村剣心「呑気でござるな」
神谷薫「いいじゃない。誰にだって語りたくない過去の一つや二つあっておかしくないわ」
神谷薫「あなただってそうでしょ?だから流浪人してるんじゃないの?」
緋村剣心「…そうでござるな」
神谷薫「いいじゃない。誰にだって語りたくない過去の一つや二つあっておかしくないわ」
神谷薫「あなただってそうでしょ?だから流浪人してるんじゃないの?」
神谷薫「ねぇ流浪人、どうせ宿賃ないでしょ?だったらウチへ来ない?」
緋村剣心「拙者小用があるゆえまた後日に」
神谷薫「ちょっと」
緋村剣心「まだ何か?」
神谷薫「えっとね…この間はその…助けてくれたお礼も言わずに流浪人風情なんて…えっと…その…ごめん」
緋村剣心「熱でもあるでござるか?」
神谷薫「人がせっかく謝ってあげてるのに!」
神谷薫「ちょっと」
緋村剣心「まだ何か?」
神谷薫「えっとね…この間はその…助けてくれたお礼も言わずに流浪人風情なんて…えっと…その…ごめん」
緋村剣心「熱でもあるでござるか?」
神谷薫「人がせっかく謝ってあげてるのに!」
緋村剣心「ここの頭目?」
西脇「比留間先生は今留守だ!」
緋村剣心「ほほう、比留間という名でござるか」
西脇「知らないで来たのか!」
緋村剣心「いや、拙者はてっきり辻斬り抜刀斎という名かと…薫殿の読みは当たりでござるな」
「どうしたんすか西脇さん」
「誰っスかそのチビ」
緋村剣心「ほほう、比留間という名でござるか」
西脇「知らないで来たのか!」
緋村剣心「いや、拙者はてっきり辻斬り抜刀斎という名かと…薫殿の読みは当たりでござるな」
「どうしたんすか西脇さん」
「誰っスかそのチビ」
神谷薫「喜兵衛さん、どうかしたの?」
喜兵衛「土地屋敷の事で」
神谷薫「お前は!」
喜兵衛「比留間五兵衛、儂の弟だ」
喜兵衛「やるなら合法的に。それが儂のやり方なんだが、お前が弟の正体に気づいてしまったからにはそうも言ってられん」
喜兵衛「好々爺を演じて信頼を得たまでは予定通りだったが、お前はお人好しのくせに剣術には非常に頑固ときた」
喜兵衛「そこで剣達者の弟を使って辻斬り騒動を起こさせ流儀の名を堕しめた」
喜兵衛「人斬り抜刀斎の雷名もよく効いてくれた。存在自体も怪しい伝説の人斬りだというのに」
喜兵衛「お陰でわずか二か月でこのあり様。この辺の地価は欧化政策の余波で五・六倍上がる」
喜兵衛「これでこの土地屋敷は儂等のもの」
五兵衛「どうした西脇」
西脇「つ…強ぇ…」
神谷薫「る…流浪人?」
緋村剣心「遅くなってすまない。話は全て聞いた」
五兵衛「また貴様か。貴様もこの小娘同様“人を活かす剣”なんぞとほざくくちか」
緋村剣心「いや。剣は凶器。剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
喜兵衛「比留間五兵衛、儂の弟だ」
喜兵衛「やるなら合法的に。それが儂のやり方なんだが、お前が弟の正体に気づいてしまったからにはそうも言ってられん」
喜兵衛「好々爺を演じて信頼を得たまでは予定通りだったが、お前はお人好しのくせに剣術には非常に頑固ときた」
喜兵衛「そこで剣達者の弟を使って辻斬り騒動を起こさせ流儀の名を堕しめた」
喜兵衛「人斬り抜刀斎の雷名もよく効いてくれた。存在自体も怪しい伝説の人斬りだというのに」
喜兵衛「お陰でわずか二か月でこのあり様。この辺の地価は欧化政策の余波で五・六倍上がる」
喜兵衛「これでこの土地屋敷は儂等のもの」
五兵衛「どうした西脇」
西脇「つ…強ぇ…」
神谷薫「る…流浪人?」
緋村剣心「遅くなってすまない。話は全て聞いた」
五兵衛「また貴様か。貴様もこの小娘同様“人を活かす剣”なんぞとほざくくちか」
緋村剣心「いや。剣は凶器。剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
緋村剣心「薫殿が言ってる事は一度も己の手を汚した事がない者が言う甘っちょろい戯れ言でござるよ」
緋村剣心「けれども、拙者はそんな真実よりも薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」
緋村剣心「願わくば、これからの世はその戯れ言が真実になってもらいたいでござるな」
五兵衛「兄貴よォ、こいつはブッ殺しても構わねぇよな」
喜兵衛「ああ」
緋村剣心「けれども、拙者はそんな真実よりも薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」
緋村剣心「願わくば、これからの世はその戯れ言が真実になってもらいたいでござるな」
五兵衛「兄貴よォ、こいつはブッ殺しても構わねぇよな」
喜兵衛「ああ」
神谷薫「(違う。妖術なんかじゃない。これは…)」
神谷薫「(速さだわ!)」
緋村剣心「一つ言い忘れていた。人斬り抜刀斎の剣は神谷活心流ではなく、戦国時代に端を発する古流剣術」
緋村剣心「流儀名“飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)”。得意は一対多数の斬り合い。こんな刀でない限り確実に人を惨殺する神速の殺人剣でござるよ」
神谷薫「まさか…じゃあなたか…」
五兵衛「面白い!」
五兵衛「この世に抜刀斎は二人もいらん!」
緋村剣心「こっちだ」
緋村剣心「抜刀斎の名に未練も愛着もないが、それでもお前の様な奴には譲れんよ」
緋村剣心「黒幕のお前はこの程度では済ませられんな」
緋村剣心「やれやれ」
緋村剣心「策を弄する者程性根は臆病なものでござるな」
緋村剣心「すまないでござる薫殿。拙者、だます気も隠す気もなかった」
緋村剣心「ただ、出来れば語りたくなかったでござるよ」
緋村剣心「失敬…達者で」
神谷薫「待ちなさいよ!私一人でどうやって流儀を盛りたてろっていうのよ!少しくらい力を貸してくれたっていいじゃない!私は人の過去になんかこだわらないわよ!」
緋村剣心「止した方がいい。せっかく汚名も晴らせるというのに…本物の抜刀斎が居座っては元も子もないでござる」
神谷薫「抜刀斎に居て欲しいって言ってるんじゃなくて!私は流浪人のあなたに居て欲…」
神谷薫「もういいわ!行きたきゃ行きなさいよ…でもせめて名前ぐらい教えてからにしてよ」
五兵衛「面白い!」
五兵衛「この世に抜刀斎は二人もいらん!」
緋村剣心「こっちだ」
緋村剣心「抜刀斎の名に未練も愛着もないが、それでもお前の様な奴には譲れんよ」
緋村剣心「黒幕のお前はこの程度では済ませられんな」
緋村剣心「やれやれ」
緋村剣心「策を弄する者程性根は臆病なものでござるな」
緋村剣心「ただ、出来れば語りたくなかったでござるよ」
緋村剣心「失敬…達者で」
神谷薫「待ちなさいよ!私一人でどうやって流儀を盛りたてろっていうのよ!少しくらい力を貸してくれたっていいじゃない!私は人の過去になんかこだわらないわよ!」
緋村剣心「止した方がいい。せっかく汚名も晴らせるというのに…本物の抜刀斎が居座っては元も子もないでござる」
神谷薫「抜刀斎に居て欲しいって言ってるんじゃなくて!私は流浪人のあなたに居て欲…」
神谷薫「もういいわ!行きたきゃ行きなさいよ…でもせめて名前ぐらい教えてからにしてよ」