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KUSURIYA | |
原作(Original Story): 日向夏×ねこクラゲ 薬屋のひとりごと 第59話ネタバレ | |
第59話 怪談(後編) | |
単行本 | 第12巻 |
ビッグガンガン | 2023年 Vol.02 |
配信日 | 2023年1月25日 |
登場人物 | 猫猫(マオマオ) 紅娘(ホンニャン) 桜花(インファ) 子翠(シスイ) |
STORY | |
子翠「これは遠い遠い東の国の話。高名な僧は隣国のお殿様の供養へ行った帰り、芒だらけの平原を歩いていた。自分の寺まで山を二つ超えないといけなくて。行きは順調だったはずの足取りが帰りは妙に重く、泊めてもらうはずだった知り合いの寺にすらたどり着けなかった」
子翠「修業中の僧は従者も馬もつけておらず遠くからは野犬の遠吠えが聞こえる。急ぎ足の僧の目に映ったのは古びた民家だった。民家に住んでいたのは若い夫婦で、僧がこれまでの事情を話すと」 《大したことはできませんが》 子翠「奥方が茄子と胡瓜でもてなしてくれた。けれど旦那のほうは怪訝な目でこちらを見ている。若い夫婦の家に上がり込んだのだから仕方ない。さらに夫婦は別部屋の寝床を用意してくれた。最低限の旅費しか持ち合わせていないのに部屋の隅でもよかったのに…その夜、僧は柔らかな布団に感謝しながら自分ができることを考えて静かに経を唱えることにした。しかしいつもなら集中できるはずなのにその日は妙に外の音が気になった。草が風に揺れる音の中に鈴のような音が聞こえる」 僧《虫か?いいや違う》 子翠「経を唱えながら音に耳を傾けると」 《どうするんだい、おまえさん》 《どうもしないよ。それでいいじゃないか》 子翠「その鈴の音はこの家の女房と話していた。つまりこの奇妙な音が旦那の声なのだ」 《そんなんじゃだめだよおまえさん。あたしゃ一人になりたくないんだ。あんたがそんなつもりでもあたしはやるんだからね》 子翠「僧は自分の肌が粟立つのを感じた」 僧《何をやる気だ。喧嘩する二人を止めるべきだろうか》 《さあやるよ》 子翠「僧は経を唱え続けた」
《どこへ行ったあの層は…どこだ…逃げたのか》 子翠「女は僧に気づいていないようだった。しかし僧は女の足元から伸びた影が到底人のものとは思えぬ形であることに気付いていた」 《あんた、探そうあんた、探すんだよ、でないとあんたを…》 子翠「焦った声の女は僧に気付かないまま部屋を出て行った。それからしばらく奇妙な音が続いたが、音が終わるまで僧はずっと経を唱えていた。そして音が聞こえなくなった頃、夫婦に挨拶もせず外へ出た。家の外には薄い茶色の虫の翅が落ちていた。僧はぼろぼろの虫の翅に手を合わせ、虫の音が響く芒の草むらを経を唱えたまま夜明けまで歩き続けた」 猫猫「(普段のあどけない雰囲気が消えてまるで違う人みたいだった。あの横顔なんか見覚えがあるような)」
子翠「次だよ次」 猫猫「ああ (…特に面白い話も思い浮かばないし昔おやじから聞いた話でもするか) 数十年ほど前のことですが、墓に人魂が出るという話がありました。いかに怪しいと勇敢な若者たちが人魂の正体を探りに行くと、同じ町に住む男がいて、ゆらめく明りが人魂と勘違いされただけでした。男の正体は墓荒らしで怪しげな呪いにはまり、万物に効くという人の肝をすり潰して身体に塗ろうと…」 猫猫「…以上です」 桜花「あっ、えっと私はえー…」 「これは先の皇帝の時代の話よ」
猫猫「(とうとう最後の一人、十二個目の話…そういえば十三の話とはなんだったのだろう)」 「増えすぎた女官たちの中で帝の御手付きになった娘がいたの」 猫猫「(あぁどうにも頭に入らない)」 「…その時冷たく濡れた手が首に添えられるのを感じた」 猫猫「(あれ?)」 「女は最後の一言こう言った。次はお前の番だ」 桜花「ちょっと猫猫!?」
猫猫「(やっぱり頭がぼうっとして当然だ) 桜花さん!ぐったりしている女官を窓の近くへ」 桜花「えっ、一体どうしたの」 猫猫「消し残った火が火鉢の中の炭に燃え移ったせいで身体に害をなす空気がこの狭い部屋に充満しているんです!」 桜花「わ…わかったわ」 猫猫「(気付くのが遅すぎたな)」 「…ああもう少しだったのに」
子翠「猫猫~!」 桜花「誰?」 猫猫「知り合いの女官です」 子翠「ねえさっきの話はなんだったの?」 桜花「さっきの話って?」 猫猫「飢えた母子が森に入った話ですよ。“禁忌の森”なんていうのは迷信でしょうが、禁忌になった謂れがまったくないとは言い切れないと思って」 桜花「へぇ」 猫猫「たとえば食べ物と食べられないものが同時にたくさんある森に外から来た人間が村を成した場合です。人々は森にある物の知識が無いために食べられないものを食べて体を壊してしまう。すると無暗に収穫しないようにと言いつけができるでしょう。言いつけは年月を経て“禁忌”になり、言いつけが長年守られていたからこそ、飢餓が起こったときに誰も食べていいものと悪いものの区別がつかなかった。豊かな森の幸を食べようとした飢えた母子は掟を破るのだからと、せめて周りから見えづらい夕刻に森に入った。短い時間で茸や木の実を採り、日が沈むとともに家に帰る。一体何を収穫したのかわからないままに。月夜茸という平茸によく似た茸があります。とても美味しそうな茸ですが、有毒で食べるとお腹を壊します。そして名前の通り暗い場所で光を放ちます (その姿はとても美しく、思わずちぎって口に入れたことがある。当然おやじに吐かされた)」
猫猫「母子が光る前に収穫した茸が夜道で光りだし、籠から漏れ出る光を村人は人魂だと思ったのでしょう (家に着いて明かりをつけたら茸は光らなくなり、母子はそれを食べた。普通は死ぬほどでもない毒でも栄養が足りない人間なら死に至るかもしれない)」 《美味しい茸が森の中にあるよ》 猫猫「(母親は最後にそう言ったのかもしれない。自分たちを助けてくれなかった村人への些細な復讐として)」 子翠「そういうことだったんだ!じゃあ私はこっちだから」 猫猫「(勝手気ままな性格だ)」 桜花「(童みたいな子…)」 桜花「まっ真相なんて大したことないじゃない。どうせほかの話もそんな裏があるんだわ」 猫猫「そうでしょぅかねぇ」
紅娘「あら思ったより早かったわね」 桜花「ええ、ちょっとした騒ぎがあって」 紅娘「まあやっぱり上手く行かなかったのね。去年までやっていた方は亡くなられたでしょ?ちゃんと引き継がれたか心配だったのよ。あの人には私もよくお世話になったわ。気の利くいい人だったけれど結局後宮から出られなかったのよね。こういう催しってあまり好きじゃないけど、だからって亡くなった翌年からいきなりなくなるのもあれかなって思ってたの。続ける人がいてよかったわ」 桜花「ええっと…その女官って」 紅娘「…ここだけの話、先帝の御手付きの人だったの」 桜花「あ…あの話…」 猫猫「(世の中よくわからなことはたくさんあるものだ。とりあえず十三番目の怪談にならずにすんでよかった)」
『その夜』 猫猫「(…暑苦しい)」 |
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