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KUSURIYA | |
原作(Original Story): 日向夏×ねこクラゲ 薬屋のひとりごと 第53話ネタバレ | |
第53話 選択の廟(前編) | |
単行本 | 第10巻 |
ビッグガンガン | 2022年 Vol.5 |
配信日 | 2022年4月25日 |
登場人物 | 猫猫(マオマオ) 壬氏(ジンシ) 高順(ガオシュン) 皇帝 小蘭(シャオラン) |
STORY | |
『手習所にて…』 「昔々この国には別の民が住んでいた。その民は長を持たなかったが、遠き地からやってきた女性がその地に腰を下ろし胎に天の子を宿した。貴い血筋のその女性は王母と呼ばれ生まれた子は月のない夜も見通せる目を持ちその眼力にて民を従えるこの国の最初の皇帝となられた」
猫猫「(今更習う気にもならなほど誰もが一度は聞いたことのあるこの国の建国の昔話だ。荒れた北の中では痛みの少ない建物が改築され後宮の手習所が始動した。教室には知った顔もいるし手習所にも興味があったので壬氏に誘われ付いてきてしまった)」 高順「壬氏さま、顔が見えてしまいます」 壬氏「ああ、わかってる」 猫猫「(せっかく勉学にいそしんでいるのにこんな生き物が覗いていたら勉強にならない)」 壬氏「…二十人くらいか」 高順「最初は十名ほどだったそうなので少しは増えたかと」 猫猫「(壬氏の目論見が成功して下女の識字率が上がれば今後後宮のありようも変わってくるだろう)」 高順「壬氏さまそろそろお時間です」 壬氏「おまえはどうする?」 猫猫「私はもう少し見ていてもよろしいでしょうか?」 壬氏「気になったところがあれば報告してくれ」 猫猫「わかりました」
小蘭「あれっ猫猫来てたんだ」 猫猫「少しは憶えた?」 小蘭「へへへまだまだだよ」 『教本は配布されるが紙や筆は消耗品なので紙の代わりに砂箱が用意されている。砂の上に字を書いて覚えるのだ』 猫猫「開いてるとこ少し先の話じゃない?」 小蘭「ああ私ね、頭が悪いから先に覚えておかないと追いつけないんだ。あとで老師に聞きに行くけど一緒に来る?」
小蘭「すみませーん。しつれいしまーす」 老宦官「ああいらっしゃい。そこの娘さんは初顔だね」 猫猫「(さっき教本を読んでいた老宦官だ) 付き添いですので」 老宦官「そうかい。ではそこの椅子に座って待つといい」 猫猫「(まるで孫だな。あれは…廟か?にしても細長くて柱の間隔が狭いな。中で細かく部屋が分かれているのか…他の建物より手入れされているが後宮よりも古そうだ。なにか祀るものでもあるのかねぇ)」 老宦官「あの建物が気になるかい?」 猫猫「少し変わった造りの建物だと思いましたして」 老宦官「あれはこの地にもともといた民が造った廟だよ。遠くからやってきた王母さまはこの地の信仰を拒む民を治めるためにうまく利用したようだ」 猫猫「(王母といえば建国の物語に出てきた初代皇帝の母という女性だ)」
老宦官「王母さまはあの廟を正しい順路で通り抜けた者が長になると伝え、見事に合格した王母さまの子が初代皇帝としてこの地を治めた。以来この地を治めたものはあの廟を通り抜けなければならない。だからこそあの廟の元に遷都したんだよ」 猫猫「(皇帝になるための通過儀礼ということか)」 老宦官「ただもう数十年と使われていないし、今後も使われるかどうかはわからないが」 猫猫「どういうことでしょうか?」 老宦官「先の主上の兄君たちは皆、流行病で倒れただろう。皇位継承者が一人しか残らなかったら廟を使う必要がなかったんだ」 猫猫「なるほど (確かに末子であった先帝が皇位を継いだ理由はそれだ。しかし兄君たちの死の裏で女帝が暗躍したのではないかという黒い噂もある。それにしてもこの老宦官、敵愾心はなさそうだが、どこか皇族に非礼な物言いだ。まるで事実を淡々と述べる研究者みたいだな)」 老宦官「その手の話に興味を持ってくれる人間はずいぶん久しぶりだねぇ」 猫猫「他にもあの廟に興味を持った方がいたのですか?」 老宦官「ああ、昔ここにいた変わり者の医官だよ」 猫猫「!」 老宦官「暇さえあれば後宮中をうろうろして今のおまえさんみたいな様子で眺めていたよ」 猫猫「それって羅門という医官ではないでしょうか?(おやじこと羅門は常識人に見えて後宮の中にいろんな薬草を植えまくったりした変人だ)」 老宦官「おや知っているのかい?」 猫猫「(一応、罪人として追い出された男なので口に出すのはまずかったかもしれない)…養父なんです。今は小さな薬屋をしています」 老宦官「そうかい…羅門がねぇ」 猫猫「(仲が良かったのだろうか)」 小蘭「猫猫見て!書けた」 猫猫「おお」
『二日後 翡翠宮』 皇帝「おい毒見役、今から選択の廟に入ろうと思う。ともについてまいれ」 猫猫「(…何故こんなことに…壬氏たちも呼び出されたのか…あちらも状況はわかっていなさそうだな。一体何をなさるつもりなのやら)」 老宦官「お待ちしておりました」 猫猫「(手習所の先生だ)」 皇帝「もう一度余がここを通ってもいいのかな」 老宦官「何度来られても同じことかもしれませぬよ」 猫猫「(皇帝に対してひやひやする言葉遣いだ)」
老宦官「お付きはどなたか必要ですかな?」 皇帝「では、この二人にしよう」 猫猫「(壬氏はまだ祭祀なども務めていたからわかるが、一体どういう意図だろう)」 猫猫「あの、女人禁制ではないでしょうか」 老宦官「王母も女帝も女性ですよ。それではどうぞ」 猫猫「(右から青赤緑の三色の扉に“赤き扉を通るべからず”か)」 老宦官「どの扉を選びますか?」 皇帝「前は緑を選んだから次は青にしよう」 老宦官「さようでしたね。ではこちらから先へ」 老宦官「お次はこちらです」 猫猫「(赤黒白の扉…“黒き扉を通るべからず”か)」 皇帝「よし、赤で行こう」 老宦官「使われなくなったと思ったらいきなりやってくる御方がいるものですから管理が大変なのですよ」 猫猫「(壁や柱に比べて扉がどれも鮮やかなのはこの老宦官が塗り直しているからか…にしてもいつまで続くのやら…作り方が複雑で方向感覚が狂いそうだ)」 老宦官「お次はこちらです」 猫猫「(青と紫と黄の扉に“青き扉を通るべからず”…妙に真剣な顔をしている)」
皇帝「黄の扉にしよう」 猫猫「(“王の子よ だが王母の子ではない” 意味はわからないが明らかに拒絶だろう)」 皇帝「これが最後の扉のようだな」 皇帝「前に来たときと同じ結果というわけか…余には天意を知ることはできないか?」 老宦官「何をおっしゃいますやら…この廟を後宮の中に閉じ込めた時点でここを管理する者は私一人になりました。天意も何もないでしょう」 猫猫「(どこか誇らしそうである。もしかすると、この廟を守るために去勢までして後宮に来たのかもしれない)」 老宦官「さて帰りはこちらへ」
猫猫「(皇帝は看板の指示に従って進んできたはずなのにどうして否定されたのだろうか…指示の中に何か違う意味でも含まれていたのか?部屋の数?選んだ扉の色か?)」 老宦官「きっと羅門ならわかるだろうね」 猫猫「(おやじにはわかる?) それは養父にならわかるという意味ですか?」 老宦官「さあてね、どうだろうね」 猫猫「(まるでおやじにはわかるけどおまえには無理だと言われているみたいだ。確かにおやじはすごい。だけど自分が完全に侮られているのには釈然としない。おやじは特に医術に関しての知識が群を抜いている。それに関係するということか?いくら見られてもおやじではないのだから答えは簡単に出ないぞ。何か引っかかってる?三つの扉に三つの色にそれから…)」 皇帝「余が王母の子ではないという意味がわかるのか?」 猫猫「(王母の子?多くの場合、男児は父親から男の因子を、女児は母親から女の因子を引き継いでいると言われる。この国の皇帝は男児の世襲制だ。男系と言えるだろう。しかし建国の物語に皇帝の父親の描写はない)」 『王の子よ だが王母の子ではない』
猫猫「(もしこの通過儀礼が男系の家系に王母の血筋を残すためのものだったとすれば?女帝に暗殺されたと噂される流行病で死んだ先帝の兄君たちももしかすると)…壬氏さま、先の主上の御兄弟は皆同腹だったのでしょうか?」 壬氏「全員ではないが皇子を産んだ母君たちは姉妹だったと聞いたことがある」 猫猫「つまり血が近かったということですね (やんごとなき血筋ならば姉妹で娶ることも近親婚も珍しくはない。事実、梨花妃も皇帝と縁戚関係にある) 無礼に聞こえるかもしれませんが一つよろしいでしょうか?」 皇帝「許そう」 猫猫「代々帝位を継いだのは目が悪い方が多かったのではないかと」 皇帝「確かにあまりよくなかったと聞いたことはある。しかし先帝の目はよかったぞ」 猫猫「あの廟の中、もう一度通ることはできませんか?」 |
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