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KUSURIYA | |
原作(Original Story): 日向夏×ねこクラゲ 薬屋のひとりごと 第56話ネタバレ | |
第56話 先帝(前編) | |
単行本 | 第11巻 |
ビッグガンガン | 2022年 Vol.09 |
配信日 | 2022年8月25日 |
登場人物 | 猫猫(マオマオ) 壬氏(ジンシ) 高順(ガオシュン) 皇帝 先帝 安氏(アンシ) 紅娘(ホンニャン) 水蓮(スイレン) |
STORY | |
猫猫「(先日、皇太后の側についていた侍女だ)」 侍女「あちらの後宮ができる前はここが後宮として機能していました」 猫猫「(聞く前に言われた。元後宮ということは見える六つの宮が妃たちの部屋で宮を囲む棟が女官たちの住居だったのだろう。人の気配はないが、埃ひとつないほど掃除は行き届いている。枯山水の玉砂利も綺麗に掃かれているようだ。宮と宮の間を通り過ぎたさらに奥、棟の中央に他よりも少しだけ大きな部屋があった)」
侍女「ここです」 猫猫「!(独特の臭い…妙な空気だ。遠目から見ても埃だらけで床は奇妙に汚れ壁も少し黄ばんでいる) ここは?」 侍女「先の先の帝の時代、女官から下級妃嬪になった女帝と呼ばれたかたの部屋であり、先帝が育まれ身罷られた場所でもあります」 猫猫「(晩年、先帝と女帝はこの部屋にこもることが多かったという。思い出にすがるようにここに入り浸り…先帝は気が弱っていたのだろうか…女帝の死後、先帝はあとを追うようにこの部屋で息を引き取った。農民などは六十を超えたら長老だというのに女帝は大往生だった。先帝も女帝ほどではないが長生きした方だ)」
侍女「先帝が身罷られた時、私は安氏さまに呪いなんてないと言いました。しかし安氏さまは仰るのです。自分が呪ったのだと…毎夜、いなくなればいいとずっと思っていたと」 猫猫「なにか呪いがかかったという根拠はあるのですか?」 侍女「魂抜けされた帝の御身体は一年間霊廟にて安置されます」 猫猫「(なにかの間違いで蘇ることは皆無ではないからな。それに生前に墓所が完成しなくとも遺体を安置しておけば工事を急ぐ必要がない)」 侍女「翌年、主上と安氏さまは先帝を埋蔵するため御身体を迎えたのですが、その姿は生前と何も変わらぬ様子で、主上はよくできた人形とすり替えられているのかとさえ思ったようです。ですが、まぎれもなく先帝だったと…」 猫猫「つまり腐ってなかったということですか?」 侍女「はい。霊廟は夏場も涼しい場所ですが、先の皇太后さまを迎えに行った際はあまり口にはしなたくない姿で、でもそれが普通だと…」
猫猫「(なるほどねえ。氷漬けでもない限り、遺体を放置すれば腐って虫が湧き、干からびる。そうでない遺体は確かに異常だ。人は皆、土に還る。それは殿上人だろうと同じだろう。生まれた立場は違っても素材まで違うとは思わない)」 侍女「もうすぐこの棟は取り壊されます。それまでに調べてもらいたいのです」 猫猫「(先帝が身罷られて六年、すでに遺体は墓所に安置され、思い出深い場所はこの棟くらいか。取り壊される前にはっきりさせないと皇太后の気持ちも晴れないだろう) すみませんが部屋の中に入ることはできますか?」 侍女「それは…わかりました。聞いてみます」
猫猫「(明日もう一度あの部屋に行くことになったが、帝の許可を得てからという話だが、皇太后が話をすれば十中八九許可が下りるだろう)」 猫猫「(間に水蓮が入ったのか、立ち合いは壬氏たちが行うらしい。壬氏の棟に帰るのも久しぶりだな。正直今、翡翠宮に帰ったら紅娘の反応が怖い。むしろ今まで甘かったほうだ。侍女頭として玉葉妃を守る立場にある紅娘からすれば、どこ付ともわからずよく他所の宮に行っている女官は好ましくなかろう。私自身ですら自分がどの立場なのかよくわからない時がある。当然、玉葉妃に害をなすつもりはないが、ほかの妃を蹴落とす手伝いをするつもりもない)」 水蓮「着替えは終わった?」 猫猫「はい」 水蓮「久しぶりだしゆっくり休んで」 『壬氏付の侍女 水蓮』
猫猫「(以前に使っていた部屋は別の者が使っているらしく、壬氏の棟の角にある二間続きの水蓮部屋に泊ることになった)」 水蓮「今日はここで寝て頂戴ね」 猫猫「(簡易式の寝台…にしては立派で可愛らしい調度だ) 長椅子(カウチ)でも良かったのですが」 水蓮「そんなところで寝られると私が気を使うのよ」 猫猫「(蠟燭を焚いて本を読むなんて贅沢だ)」 水蓮「猫猫も何か読みたいなら奥の部屋から探してきていいわよ」 猫猫「(本は貴重だし読める機会に呼んでおくほうがいい。かなり趣味の傾向が違うようだ。こんな本を読むなんてけっこう若いな…)」
猫猫「(緑に金糸の刺繍がついた行李だ。古びているが綺麗に渋柿が塗られている)」 水蓮「それが気になるの?」 猫猫「ご安心を!盗もうなどと考えておりません」 水蓮「わかっているよ」 猫猫「子どもの玩具でしょうか」
水蓮「これは壬氏さまのお気に入りたちよ。たくさん玩具があるのに気に入ったものばかりで遊ぶからこっそり隠したものなの」 猫猫「なんで取り上げたりしたのですか?」 水蓮「一つのものに執着しているとそればかり見てしまう…それが許される立場に生まれた人ではないからよ。嫌でも背伸びして大きくなってもらわなくてはいけなかったの。それが壬氏さまの母君の願いだったから。でもそうなると本当に手がつけられない程泣いてしまって、高順は新しい玩具を持ってきてはどうにかしようと苦労していたわ」 猫猫「(手垢で少し黒ずんだ木彫りの人形…汚れを知らない手で触れてこうなるまで遊んでいたのだろう)」
猫猫「(抑圧された環境で育つと心に影響を受けると聞く。壬氏がだんだんと見せるようになった妙な子どもっぽさは壬氏の持っていた本質の一つなのかもしれない。それでいて、周りには完璧に麗しの宦官としか扱られないのだから本当におかしな話だ)」 水蓮「ねぇ、猫猫は壬氏さまをどう思う?」 猫猫「いい上司だと思います (珍しい薬をくれる点では)」 水蓮「何か含んでない?」
猫猫「(なんだあの紙…これは)」 水蓮「あらっ、こんなところに混じっていたのね。捨てろと言われていたのに」 猫猫「(なんだったのだろう…ん?) この石触っていいですか?」 水蓮「いいわよ。そんな手拭いで触らなくてもただの小石よ。どこで持ってきたのからしね。石を集める趣味なんてなかったのに」
猫猫「これはすぐ取り上げたのですか?」 水蓮「ええ、拾った石なんてあまり清潔じゃないでしょ」 猫猫「それは正解です。これは毒ですから」 水蓮「どういうこと!」 猫猫「それはこちらが聞きたいところです。なぜこんなものを拾ったのか…もしかして壬氏さまは幼い頃、内廷に入ることがあったのではないでしょうか?」 水蓮「…ええ多少は…でもそれがどうしたというの?」 猫猫「今はなにも言えません (一つの仮説がある。けれど証拠がない) ただ、明日になればはっきりすることなのでそれまでお待ちいただけますか?」 |
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