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KUSURIYA | |
原作(Original Story): 日向夏×ねこクラゲ 薬屋のひとりごと 第57話ネタバレ | |
第57話 先帝(中編) | |
単行本 | 第11巻 |
ビッグガンガン | 2022年 Vol.11 |
配信日 | 2022年10月25日 |
登場人物 | 猫猫(マオマオ) 壬氏(ジンシ) 高順(ガオシュン) 安氏(アンシ) |
STORY | |
『改めて、先帝の籠っていた棟へ』 猫猫「(予想が外れたとき居心地が悪いので大げさにしたくなかったんだけどな…少し歩くだけで埃が舞う。しかしこの独特な臭いは黴だけではない。平たく穂先が揃えられた筆たち…やっぱりこれば) 先の主上さまは絵を描く趣味があったのでしょうか?」 安氏「…一度だけ描いていただいたことがあります。皆に知られると取り上げられるからここだけの秘密だと言っておられました」
猫猫「(壬氏の指先が小刻みに動いてる。最近気付いた壬氏の癖だ。平静を装っているが動揺しているのだろう。先帝については詳しく知りもしないし深く知りたいとも思わなかった。呪いの正体を暴くためには情報が必要だ)」 猫猫「ここで絵を描かれていたのでしょうか?」 侍女「それはわかりませんが、この部屋に入られてからずっと同じ者がついていたので、その者ならわかるかもしれません」 猫猫「そのかたをすぐに呼べますか?」 侍女「確かまだ働いていたと思うけど」 高順「呼びましょう」 猫猫「この筆には触ってもいいですか?」 安氏「どうぞ」
猫猫「(毛先は思ったより硬い。そして独特の臭いがする。床に散らばった煮詰めた飴のような汚れには必死に拭ったような跡がある。そして汚れの行き先はこの壁だ。分厚い紙に張っているみたいな弾力。表面は頑丈にするためか塗料か何かが塗られている)」 猫猫「(この部屋が質素に見えるのは、ただでさえ装飾のない無地の壁紙が時間経過と共に黄ばんだからだろう。呪いは大方見当がついていたが、もう一つどうでもいいことがわかりそうだ)」 侍女「連れてきました」 安氏「あなたは…」 猫猫「(かなりの老齢だ。本当にこんな老人が数年前までやんごとなきお人の部屋の管理を任されていたのだろうか) 聞きたいことがあるのですが」 安氏「この人は元苦奴婢(くぬひ)です。喋ることはできません」 猫猫「わかりました (そういうことか…苦奴婢(くぬひ)とは、国の奴婢、すなわち奴隷だ。働きに応じて奴婢から解放されることから妓女の年季に近いものがあるが、ひどい扱いを受けている者は多い。周りから監視されるように生きている殿上人なら口がきけない者をあえて選んで使用人にすることはままあるだろう) この部屋を掃除していたとき、絵などありませんでしたか?(なんの反応もしない) 何かあったと思いますが (小娘の話など聞く耳はないと思っているのか…いや違うな。何かを隠してる)」
猫猫「!(壁に何かある?) この壁、剥いでもいいでしょうか?(やめろと言わんばかりの視線だがそういうわけにもいかない) 構いませんか?」 安氏「どうせそのうち壊されるものだからそれで何かわかるならば」 猫猫「(道理で弾力があるわけだ)」 壬氏「なんだこれは」
猫猫「(先帝の人間性に興味はない。ただ国の頂に立ったために本当の才能を生かすことなく亡くなられたのだろう。画材や技術ではない。何かを訴えかける伝えたい何かが込められている。この絵にはそう思わせる力がある。昨晩見たあの絵に似てる) 上から壁紙を被せてあったため劣化していますが、この絵も元は鮮やかな黄色だったのでしょう。絵の具とは、色の元となる粉を液体と混ぜて作ります。雄黄色とも言われるこの色は名の通り雄黄という石を砕いて作ります (それこそが壬氏の行李の中にあった小石の正体だ) 雄黄色には砒毒と同じ毒性が含まれていて、砒毒には物を腐りにくくする作用があります (最初は壁紙か何かに使われていた雄黄を先帝が知らずに身体に取り込んでいたのではと考えていた。しかし幼い壬氏が宮廷内で雄黄を拾ったことと、部屋に落ちていた筆の形状が変わっていたことで違う可能性が出てきた)」
猫猫「砒毒は少しずつ長い時間をかけこの部屋で先の主上さまの体に取り込まれ、亡くなる頃に全身に回ったのでしょう (医官たちもその可能性はわかっていたと思う。しかしどこで摂取したかもわからない上、彼らに帝の行動を制限することはできない。せいぜい食事に混じっていないか確認するだけだ。上に立つ者が絵を描くなんてくだらないと少なくとも周りはそうとらえるだろう。だから昏君と言われたあの帝ですら隠れるように絵を描いていた。口がきけない苦奴婢に部屋の管理を任せて。まだ弾力がある。この下にも何枚もの絵があるのだ。不思議なのはどうやって絵を描く道具を手に入れたのか…この床に落ちた飴のような汚れはおそらく動物の皮などを煮出して作られる膠だろう。膠(にかわ)には紙と絵の具の接着を良くするのりの役目がある。絵筆は動物の毛さえあればなんとかなるとして、膠や壁紙にできるほど大きな紙、絵の具の材料となる岩石たちはそう簡単に手に入るものではない。それはつまり、この絵を描くのに欠かせない材料たちを誰かが特別に用意したことを意味する。先帝は大人の女には目を向けない人だった。それと同時に目を背けられない巨大な影の存在を感じていただろう。この絵の女性はわかっていたのだ。自分の子が帝にふさわしい器ではないことを)」
猫猫「(だから女帝と呼ばれようとも自分のもとに権力を集め、偶然、帝の地位を手に入れてしまった。吾子を必死に守ろうとした。そんな女帝が最後にくれたのがこの場所と絵を描く道具であればなんという皮肉だろうか。この老人は女帝から画材を受け取って先帝に渡していたのかもしれない。それに毒が含まれているとは老人も女帝も知らなかっただろう。まるで蒼穹の彼方にいる誰かに問いかけているようだ…なんて感傷的になっているな)」 猫猫「私が言えるのはここまでです」 |
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