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KUSURIYA | |
原作(Original Story): 日向夏×ねこクラゲ 薬屋のひとりごと 第58話ネタバレ | |
第58話 先帝(後編) | |
単行本 | 第11巻 |
ビッグガンガン | 2022年 Vol.12 |
配信日 | 2022年11月25日 |
登場人物 | 猫猫(マオマオ) 壬氏(ジンシ) 安氏(アンシ) 先帝 水蓮(スイレン) |
STORY | |
『猫猫の話を聞いて…』 安氏「(猫猫という女官は十二分な答えを出してくれた。むしろ知らなくてもいいことまで伝えてくれたのかもしれない。ああ腹が立つ。かすれた絵でありながら健在な存在感…私は…この周りにいる娘たちの一人なのかもしれないし、その中にすら入っていないのかもしれない。結局、自分などただ通り過ぎるだけの存在だったのだ。ここ(腹)にある傷痕のおかげで国母としての今があるのにすぎない)」
『偶然先帝の手にかかり、身籠った幼い娘、そう同情する声もあった。確かにそんな娘はいただろう。しかし主上の性癖のことはあらかじめ知っていた。父は文官で母は妾腹だった。同年代よりも初潮がくるのが早かった。その割に幼い顔立ちをしていた私を父は都合のいい道具として利用したのだ』 『腹違いの姉が中級妃となり、その侍女として後宮に入った。異母姉は父の思惑も知らずただ憧れの主上の訪問を待ち望んだ。機会は意外と早く来た。魅力的な顔立ちの主上は明らかに乗り気でなく宦官に連れて来られた様子だった』
『しかし蝶よ花よと育てられた異母姉にはそれがわからなかった。異母姉は主上に触れようとして…次の瞬間には床に倒れていた』 『倒れて呆ける中級妃を恐れて体を震わす気の弱い男はとても国の頂点に立つ者には思えなかった。侍女ならば倒れた妃を慰めるか、それとも非礼を主上に詫びるかすべきだった』 安氏《大丈夫でしょうか?》
『しかし主上の目は確かにこちらを捉えた。野心に満ちた十の娘を。その後も使命を帯びた幼い娘たちが何人も後宮にやってきて後宮はどんどん大きくなり、三つの区画が増やされた。先帝が即位したのと同時に造られたのが現在の南側である。その間に何度も命の危険にさらされた。幸運だったのは子が男子であり、孫の存在を女帝が認めてくれたことだ。それ以前も女児を産んだ娘がいたが先帝が知らないと否定したため女児の父親と思わしき医官が追放されたことがあった。当時は後宮内でも医官のみ去勢を免れていたが、その後は医官も去勢を義務付けられた。この腹の手術をした者はそのために去勢させられたというから不憫なことこの上ない。時が経ち少女の外見を通り過ぎた私に先帝は会いに来ようとしなかった。女帝の傀儡としてのみ存在し幼い娘にしかまともに話かけられない情けない男。そんな者に忘れられるのが許せなかった』
『二人目の子を不義の子だと疑う者たちがいる。しかしそんなことあるわけがない。閨の中、自分の腹の傷を見せつけ、許しを乞い怯える男の耳元で呪詛を吐き続けた。男の手にかけられた幼い娘たち、そのすべての傷を合わせても足りないぐらいにいたぶった。偉大な母であるあの女帝よりも深く思い出に繋ぎ止めるために』 『その後、先帝は心を壊し、この棟に引きこもったが、誰のせいかなんて追求する気も起きない。けれど結局、あの男はこの部屋で女帝である母と野心のない娘たちばかり思い描いていたのだろう。あれはどんな絵だっただろうか…一度私を描いてくれたことがある。内緒だとこっそり筆を走らせる姿はとても穏やかで…』
安氏「(その絵をとても大事にしていたけれど、捨てるようにと侍女に言った。私にはもう先帝は必要ない。私が先帝にとって必要ないように…子が危険にさらされるかもしれない、そう思った時の決断は早かった。たとえ不義の子と言われようと取り違えられた子であろうと大切な子に違いなかった)」 壬氏「昔、あのかたが私たちのもとへ来たことがありましたよね」 安氏「ええ、もう十数年も前になるかしら」 壬氏「(突然訪れた先帝の元にすぐさま女帝がやってきて可愛い一人息子をなだめながら帰っていった) あのとき、私はこんなものを拾いました。これが雄黄というものらしいです。水蓮が今朝ようやく返してくれました」
安氏「(ずっと昔にそう指示したのだ。あまり同じもので遊ぶようなら取り上げてしまうようにと。その残酷さもわからないまま機嫌を窺うような幼子の視線を避けた。そのためにこの子は子どもの心のまま人一倍早く大人に育ってしまった)」 壬氏「一度、私はあのかたの絵を見たことがある気がします。絵には若い娘が描かれていて淡く色づけされていたように思います。この石を拾ったのはきっとその絵の色を覚えていたからでしょう」
安氏「(捨てろと言ったはずなのに)」 壬氏「昔あなたは好んでこの色を着けていらっしゃいましたね」 安氏「たまたまよ (鬱金の生産が盛んな実家から持ってこられる服には黄色が多く使われていた。その流れで着ることが多かったに過ぎない)」 壬氏「あの絵の女性は本当に女帝なのでしょうか?あのとき、あのかたは何を伝えたかったのでしょうか?」 安氏「さあ知らないわ (そんなこと知らない。もう知ることはできない。知ろうとしないことを選んだ) それよりもあなた、ずいぶん面白い女官に目をかけているようですね」 壬氏「…あれはなかなか使える者です」
安氏「そうね、でも (それがすべてではないことくらいわかる。何年も見てきたのだから) お気に入りは隠しておかないと誰かに隠されてしまうわよ」 |
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